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U96さんの日記

(Web全体に公開)

2012年
08月25日
05:04

零戦の航法

 ある地点からある地点までの移動において大事なことがいくつかあります。
 ひとつは「水平儀(ジャイロコンパス)の調整」です。
飛行機では方向を表示するのに、磁気コンパスでなく、ジャイロコンパスを主に使用します。なぜなら、磁気コンパスは反応が遅く、旋回してすぐは正確な方向を示さないからです。また、ジャイロコンパスは前後左右の傾きも表すことができます。
 ジャイロコンパスは計器板の中央にある丸い玉です。上半分が空を表す青、下半分が地面を表す黒に塗られ、境目のところに今自分がどちらを向いているかを示す「SNWE」の方角と目盛りが刻んであります。一回スイッチを入れると(エンジンが回ると)自動的に作動します。
 ジャイロコンパスは飛び上がる直前に磁気コンパスと同調させます(パイロットが調整できるようになっています)。水平儀は一回動き始めるといつまでも同じ方向を向くようにできています。しかしながら、避けようのない欠点があります。それは「地球の自転に同調していない」ということです。地球は24時間かけて1周しているので、もし、12時間放っておいたら北を指していた物が南になります。
 そこでだいたい15分おきにジャイロコンパスと、磁気コンパスの同期を取らなくてはなりません。零戦ではジャイロコンパスの横に丸い磁気コンパスが付いています。ジャイロコンパスを調整して磁気コンパスに合わせます。これをしないと空の上で迷子になります。
 ただし、ぴったり合わせればいいかというと、そうでもありません。飛行機は一部に鉄の部品を使っています。これらが影響を与えるので、磁気コンパスの方向指示は正確ではありません。
 ですから、飛行機が工場で組み上がった時点で、磁気コンパスがどれぐらいずれるのかを記録しておけば、機上でパイロットが修正できます。どれぐらいの誤差が出ているかはジャイロコンパスのそばに書いてありますから、これを読んで調整するわけです。鉄製品の持込は注意してください。軍刀を持ち込んで計器に誤差を生じさせ、二度と帰ってこなかったパイロットも珍しくないのです。
 零戦にはGPSはありません。そこで、地面の上を飛ぶ場合は基本的に地上目標を見て、飛ぶ「地文航法」を利用しました。今日でいう有視界飛行です。飛行前に目的地を設定し、航空図(海軍ではチャートと呼びました)に目標物をマークしておきます。実際に飛んでみてある目標物に達するまで、右にぶれたら次の目標物の間にずれた角度を倍にして元の航路に戻します(これを「倍角修正法」といいます)。あるいは速度から計算して早く着きすぎた、あるいはちょっとゆっくりだったというのも記録していきます。この「記録」は非常に重要になります。というのも飛行機というものは常に風に流されます。あまり流されると自分の位置がわからなくなり、行きたいところへも行けません。
 チャートそのものは非常に正確でした。日中戦争では、陸軍の九七式司令部偵察機が綿密な偵察飛行と写真撮影から進撃ルートを設定しました。この写真をベースにチャートが作られました。
 では「A基地」から「B基地」900キロメートルを飛んでみましょう。飛行前に道中の天候や風向きを調べます。そして最も重要な目的地までの方位と距離を「チャート」に記入しておきましょう。あとは速度を一定(巡航速度の200節(ノット))にして先ほど調べた方位を飛び続けます。速度を一定にするのは飛行速度で距離を算出するためです。基地を離陸して2時間25分後に「B基地」が視界に入るはずです。「零戦」に搭乗する時は正確な時計は必需品です。

コメント

2012年
08月25日
08:30

1: 退会済ユーザー

A地点から~~♪
B地点まで~~♪
行くあ~~いだに~~
既に恋をしてたんです~~♪

・・・どころの騒ぎでわないな・・・
命懸け~~

2012年
08月25日
09:26

零戦は戦争知らなくても有名な名機ですね。
日本の工業技術はこの頃から良い意味で変態なのかもしれません。

2012年
08月25日
13:49

いろんな意味ですごい飛行機だと思います

2012年
08月25日
15:40

うほ、これは面白い話を聞いた。
なんとジャイロを手動でいちいちセッティングしてたんですねー。
たしかに言われてみると、コンピューターなど無い時代に自動調整とかできるわけないですもんね。
こういうローテクさってなんかツボです。痺れます。

2012年
08月25日
19:41

5: U96

>倶利伽羅いちろうさん
A地点からB地点って昭和50年代の漫才みたいですね。

2012年
08月25日
19:45

6: U96

>袋の鼠さん
いらっしゃいませ!
…零戦の性能はバランスが良いのですよ。

2012年
08月25日
19:47

7: U96

>あおねこさん
稼働率が90~95%だったそうです。ちゃんと使えることは兵器として大事ですよね。

2012年
08月25日
19:49

8: U96

>ちはやさん
ミリタリーの地味な面も見てほしいと思って書きました。楽しんでもらえましたか?

2012年
08月25日
20:11

昔は、限られたツールで飛行してたんですね。
もし今のハイテク機器が使えなくなったら、またこの時代に戻らざるを得ないのでしょうが、使える人はもういないのでしょうね。

2012年
08月25日
20:16

10: U96

>たかたかさん
最近、使えるパーツを集めて実働可能の零戦が復元されたりしていますが、計器類はほとんど今風のものに変えられております。使える人がいなくなったとは考えたくないですね。

2012年
08月25日
20:56

11: Soda

何故か偶然にも、先日CSで放送された「零戦燃ゆ」を、現在ダビング中です。

2012年
08月25日
21:00

12: U96

>Sodaさん
そんなものが放送されたのですか…観たいなと思いながら何年も経ってしまいました。いいですね。

2012年
08月25日
21:37

13: 退会済ユーザー

お久しぶりです。
確か、ドイツではコマンド?ゲレートとかいうもんで行き帰りしてたという話を孫聞きしました。間違ってたら申しわけありません。

2012年
08月25日
21:48

14: U96

>フロッガーさん
お久しぶりです。
コマンドゲレートはエンジンの制御機能のようですね。

http://ja.wikipedia.org/wiki/BMW_801

2012年
08月25日
22:44

15: REW

昔の洋ゲーのフライトシムで、似た操作が入ってました。
そのゲーム、離着陸地点の飛行場の高度も入れないと、高度計に数フィートの誤差が出たりで偉いマゾかったです…。

2012年
08月25日
23:18

16: U96

>REWさん
それは難儀ですねSIERRA社の「レッドバロン」のようにはお気軽にはいかないのですね。

2012年
08月26日
17:07

洋上を飛ぶ海軍パイロットは、この計器飛行がちゃんとできないといけませんでしたから、大変ですよね。
特に水上機の育成段階では風防を覆われて、計器だけで帰投する訓練をさせられていたそうです。
パイロットは航法計算をする為の計算尺を持っていて、燃料消費率や風向き、速度などを機上で計算したそうです。これの改良型をエースパイロットだった坂井三郎さんがラバウル時代に考案し、後に正式採用されました。

特に艦載機は「海から出て、海に帰る」ので、地文航法が役に立たない局面もありました。……母艦も移動してますし。
零式三座水偵など、偵察機は戦争後半になると昼間の制空権を取られているので夜間偵察が主になり、余計に大変だったそうです。
という訳で、洋上では計算で「風向きと風速、乗機の速度と進路から多分この辺り」とはじき出す推測航法が使われたようですね。もちろん、夜間は星を観測する「天測航法」を併用します。

ちなみに、ジャイロが安定するまで5〜10分かかります(これは現在でも同様)。なので、エンジンかけてもすぐに飛べないのが飛行機なんですよね……。

それと、復元機の計器ですが、今でも小型プロペラ機は昔ながらの計器を使っているので、ちゃんと精度が出ない計器を現在のものや、他の大戦機から流用して使っています。
これは考え方の違いで「ちゃんとディティールを完全復元する(その代わり飛行に制限が出る)」か、それとも「ちゃんと飛べる機体に仕上げる(ディティールは妥協)」かということです。
計器とエンジンがやはり弱点で、零戦のツインワスプ(栄より直径が大きい)は定番として、マーリンエンジン(DB601とレイアウトが逆さま)積んで機首が完全に変わったBf-109なんかもあります。

>REWさん
実際の飛行では、飛行場の気圧(高度補正値)を「QNH」として必ず出発時と着陸進入時に管制塔から告知されることになってるので、そのフライトシムは本格的(実際に教習に使える)レベルだったのかもしれませんね。

2012年
08月26日
21:20

18: U96

>咲村珠樹さん
詳細な解説ありがとうございました。
…映画「空軍大戦略」ではスペイン製イスパノスイザ搭載のBf-109が出ていましたよね。