放送前から注目してた側からすると、まさかこんだけ人気出るとは思わなかったのですが、何となく理由が判る気がします。
それは「割り切り」。
色々戦車が出てきて、シーンにも名作戦争映画からのネタを引っ張ってきたり……と、ミリタリーファン歓喜!的な感じがしますが、実は「全く細かい話はしていない」んですよ。
ことおたくやマニアは、くどくどとスペックを詠唱するように並べ立てて、それがそのジャンルを詳しく知らない人にとってはToo Muchな感じを与え、結局「知識の飽和攻撃」に耐えられなくて「もう結構です」と敬遠されてしまうものです。
秋山殿にその部分を全て託すこと、そして他のキャラに止めさせることで、陥りがちな「ウンチク垂れ流し」をしないようにしてる訳で。
で、基本的に「戦車ってこんな感じで動く」(実際より誇張されてますが)とか、「この砲の威力はこれくらい」というのをスペックではなく、アヒルさんチームの八九式中戦車が目の前のマチルダ撃っても全然効かなかった……というシーンなどで、相対的に見せて「ああ、こういう差があるんだ」と簡単に見せてしまう。
ミリオタにとっては、色々語るべき余地があるのですが、素人さんにとっては「これで十分」なんですよね。
そして、ミリタリー描写だけでなく、この「割り切り」は、ドラマ自体にも徹底されています。
一応、この作品は「学園もの」で、ほぼ学校関連でストーリーが進行します。
しかし、学園ものにありがち……というか、空気みたいに「当たり前」と思われてた存在が登場しません。
そう、学校が舞台なのに「先生が登場しない」んですよね。
出てきたのは、戦車道を教える為に外部から招聘された蝶野1尉くらいで、みほのクラスの担任など、元から学園にいる先生は出てきません。
そして蝶野1尉にしても、ストーリー上の存在感は最初の「西住師範には……」という台詞で、みほが実家と「何か」あるんだな、と思わせるだけの役割で、後は観客のひとりと化しています。
これも「1クールで『戦車で競う武道』を通じて女の子達の友情を描く」為には、必要なのは「戦車道でライバルと競うこと」なので、余計な「学園ものならではの定型描写」を切り捨ててる訳です。
大事なのは「戦車」と「女の子」であり、その「女の子+戦車=正義!」を描き、一般受けさせること。
それに徹する為に、いろんなウンチクや細かい描写を入れたいのをあえて我慢して、ひとつの目的の為に「割り切って」作ってる訳ですよ。
ミリタリーちょびっと、女の子たくさん(どれか好きなキャラができるであろう)……このバランスです。
恐らく、鈴木さん達は過去の失敗などを糧にして「ちょうどいいマニアックなさじ加減」を会得したんでしょう。
「気になった奴は勝手に調べる」ということですね。
作品の目的は「微に入り細を穿つ」ことではなく、いかに「多くの人に受けるか」な訳ですから。
事実、大洗の町ももう出てきませんし、もうストーリー上は必要ない訳ですよね。
最初の「実在の町を戦車が走り回る」視覚的な面白さを見せる為の舞台が、たまたま大洗だった訳ですよね。
ここいら辺が、直接ストーリーには関係ないように思える六花の実家(やってくる前の家)まで、実在する家を取材して描いてる『中二病でも恋がしたい!』とかとは違う訳で……。
あちらは、ああいう処を丹念に描くことで、別のものを表現しようとしているので、目的とアプローチが違うんですが。
とにかく、余計なものを「割り切り」で描写せず「見たいであろうものを見せる」に特化することで、『ガールズ&パンツァー』は視聴者の心を掴んだのではないか……と思うのです。
コメント
12月06日
20:14
1: U96
基本的に賛成いたします・・・それにしてもあと4話ほどですが、ストリー的に収集がつくでしょうかね・・・
12月07日
01:00
2: 咲村珠樹
>U96さん
その為のシリーズ構成ですから。
9話でプラウダ戦に決着付けて、10話で黒森峰との因縁話、残り2話で、みほが西住の家との確執と向き合って決着……という感じじゃないでしょうか。
急転直下の展開もなさそうな、ちゃんとした構成でできあがってると思いますよ。
12月07日
20:08
3: Souri
テレビ環境がないから確認が~
とか思ってたらネット配信してるんですね。
大人不在のアニメ・マンガが増えてるのは
時代性というにはあまりにも怖い話ではあります。
12月07日
21:59
4: 鉄砲蔵
僕もおたくま経済新聞で説明過剰になる事があるけど、確かに普通の人にはうざいかもね。僕にとっては重要に思えても。感覚的にズレないようにしよう。
12月08日
00:33
5: 咲村珠樹
>Souriさん
短いシリーズにおいて、家族とか周辺の大人とか、直接ストーリーに関わらない「設定」に近いキャラを出すのは、その分尺を取っちゃうので、本筋がどこにあるのか、あやふやになってしまう危険もあるんですよね。
ストーリーが舌足らずになって「超展開」になるより、設定が舌足らずになった方がマシですし。
余裕があれば、キャラを整理しないで、もっと濃密に描けるんでしょうが……。
実はこういう「余計な背景キャラを描かない」作品というのは、既に1980年代からありました。
1970年代の『風と樹の詩』や『はみだしっ子』シリーズなんかも、あえて大人を登場させないことで「閉じられた世界」を描き出していましたし。
個人的には「家族や地域社会などの日常生活」が描けないのは問題だと思います。
原作者自身の力量で、リアルな大人が描けないというのも多々あると思いますが……。
一般的な動き(椅子の背を引いて座る、熱いものを熱そうに、冷たいものを冷たそうに食べるなど)などの「基本的なキャラの芝居」が、アニメーターも声優もできない状況もありますし、結構様々な状況が絡んで根が深いんですよ。
12月08日
00:38
6: 咲村珠樹
>鉄砲蔵さん
基本的に「言いたい(書きたい)ことの1/3」程度がちょうどいいみたいですよ、素人さんには。
まず、何が一番重要(伝えたいこと)なのか、という優先順位を付けて、下位になるものは思い切って削っちゃうとか。
……まぁ、どうやっても理解されない、ってものもありますが。
咲村だと、鉄道に関わる臭いを楽しむ「嗅ぎ鉄」とか、ドールとは全く異質の「生人形」鑑賞とか。
あまりに先鋭的(というかフェティッシュ)すぎて、常人の理解を超えるみたいです(^^;