では、飛行機の操縦で、最も難しい「着陸」をやってみましょう。
実際の着陸操作の手順を説明します。
飛行場が見えてきました。
管制塔あるいは待機所から着陸許可が出ました(自分で着陸していいかどうか判断しなければならない場合もあります)。
規定の高度で滑走路に向って直進します。飛行場によって違っている場合がほとんどですが、ここでは高度1000フィート(およそ300メートル)としましょう。
プロペラピッチ低
スロットルを速度100ノットになるまで下げます。
AC(混合比)、最濃。AMC(自動混合比)でもかまいません。
速度がおよそ110ノットになったら、主脚とフラップを下ろします。
主脚は収納する時と逆に油圧ポンプのセレクターをひとつひとつ切り換えて下ろしていきます。完全に下りると「カチッ」と音を立ててロックされ、計数版のランプが点灯します。そして主翼上に脚が出ている棒が突き出されます。この機構は機械的に脚と連動していて、電気的なインジケーターが故障しても確認できます。同様に尾輪も下ろします。
フラップは「下げ翼」と呼ばれる機構です。これを下げることによって着陸速度を遅くします。零戦の場合、パカッと下向きに開く原始的な「スプリット・フラップ」です。ちなみに陸軍の「隼」のフラップは主翼面積を大きくするのと同じような働きをする進歩した「ファウラー・フラップ」を採用していました。
脚とフラップを下ろすと、飛行機の受ける風の状態が変わってきます。
エレベータートリム(昇降舵を調節する機構)を調整して水平飛行を維持します。
離陸と同じように飛行眼鏡をかけて、風防を開き、イスを持ち上げます。これで滑走路がよく見えます。
滑走路端に向けて降下しましょう。この時の速度は70ノット。降下角度は3度が理想的です。速度は計器を読めばわかりますが、降下角度は感覚で覚えてもらうしかありません。
空母や整備された飛行場であれば「着陸指示板(着陸指示灯)」があります。これは地面に赤い板があり、その手前何メートルかに白い板を打ちつけた棒が立っています。上空から見てこの2枚の板が水平に並んで見えれば、あなたは適正な進入経路に乗っています。もし、赤い板が上に出ていたら低すぎます。スロットルを開きながら操縦桿を引いて調整します。白い板が上に出ていたら高すぎます。スロットルをゆるめて操縦桿を倒します。
この時、降下速度70ノットは絶対に守ってください。速すぎても遅すぎても着陸は失敗します。
いよいよ滑走路端を越えました。
スロットルをアイドリングまでゆるめて、操縦桿を引きつけます。それと同時に機体が左に振られますので、ラダーで調整します。これを「当て舵」と言います。
速度が気になると思いますがこの段階では速度計でなく外の地平線を見ていてください。エンジンパワーが落ちているので水平飛行は維持できません。高度がどんどん落ちていきます。
海軍では二本の脚と胴体の後ろについている尾輪が同時に地面につくような「三点着陸」を重視します。これは空母に着艦する時に重要になるからです。
また、着陸寸前に、速度と高度を最低まで落とすのは主脚を守るためです。飛行機のタイヤはエンジンや動力を伝えるものが何もありません。そしてあまり速い速度には対応していませんし、高いところから落ちる負荷を吸収する能力もあまりありません。もちろん主脚にはサスペンションがついていますが、無限に力を吸収できるわけではありません。着陸のショックで主脚が折れたり、極端な場合は主脚を突き破る事故などもあったようです。
三点着陸態勢にするため、また、速度を落とすために、機体が少しでも落ちたら、操縦桿を引いて、機首上げ姿勢を取ります。再度飛行機が落ちたら再度操縦桿を引きます。当て舵も強くしなければなりませんが、速度が落ちきっているのでスカスカですぐには効きません。
頼れるのは自分の目と、操縦桿から伝わってくる感覚だけです。
「失速」とは、飛行機の翼が力を失うことです。あとは垂直に落下します。
着陸時、失速直前の速度は60ノット程度と言われています。
飛行機はさらに高度を下げようとします。操縦桿を引きつけて、こらえましょう。
この状態でもう1度、操縦桿を引くと、翼が力を失います。「失速」して、零戦の翼が震えます。「不正振動」という現象で心配することはありません。教官たちは「地上、1寸(約3センチ)で失速させろ」と教えていました。
速度と高度がぴたり決まっていれば、タイヤはトンと軽く地面に触れるでしょう。高度が高すぎるとドシン、と叩きつけられます。これをパイロットたちは「脚の強度試験」と呼びます。
スロットルを開きすぎたり、操縦桿を倒しすぎたりして、速度がつきすぎた状態では、タイヤが地面についたとしても、ポーンとバウンドしてしまいます。滑走路が充分に長ければもう一度出力を上げて、もう1回着陸操作をします。滑走路が短すぎたら、やはり出力を上げ、飛行場の周りを一周してやり直しです。運が悪いとバウンドせずにタイヤをとられて前のめりにつんのめります。逆に速度が遅すぎると、地面に充分接近する前に落ちてしまいます。
零戦パイロットは着陸動作をマスターするために、まずは復座機で教官と練習し、次に中間練習機(二人乗り)で練習し、最後に零戦で練習します。いきなり危険な着陸動作をさせたりはしません。
さてあなたの零戦は地上に戻ってきました。滑走路が充分に長ければ、何もしなくても止まります。けれど、滑走路は着陸ぎりぎりの長さで作られるのがほとんどなので何も操作しないとはみ出てしまいます。ブレーキを踏んで速度を落としましょう。
飛行機のブレーキですが、いきなり踏みつけると、飛行機がつんのめります。自動車と同じつもりではいけません。右ペダルは右のタイヤ、左ペダルは左のタイヤを止めるようにできていますので、両方のブレーキをゆっくり踏みます。片方だけあまり強く踏むと左右にぶれて滑走路から飛び出したり、その場で一回転しかねません。
飛行機が停止すれば、着陸操作は完了です。
コメント
09月15日
20:17
1: ちはや
混合比まで操作できるんですね。どういう状況だと変更する必要があるのか、興味深いです。
アイドリングにした場合に左に振られるのはプロペラのトルクが減少する影響でしょうか?
09月15日
20:35
2: 退会済ユーザー
失敗して死んじゃう~~~~
09月15日
20:57
3: 退会済ユーザー
対するアメリカさんのF6Fヘルキャットは、着陸・着艦時に脚が折れてしまう事が多かったそうです。…原因は、アメリカらしく太りすぎ、らしいです。
09月15日
21:24
4: REW
地上付近、特に離着陸では高度レバー(A.C/A.M.C)を使わなくないです?
……昔のゲームの知識でアレですが。
しかも3回に2回は着陸できませんが^^;
横レスだけど、混合比は特殊な機動の際に弄ります。
急降下爆撃の時に予め手動で0にしたり、空母から離陸して速攻で敵編隊までの高度稼ぐ時とか。
あと、飛行場や甲板を垂直に捉えようとした途端、実は機体が常に右に滑ってた事を実感します~。
プロペラ機(二重反転プロペラ以外)そのものの問題だと思うです。
09月15日
23:57
5: U96
>ちはやさん
空気に含まれている酸素が限られているので、エンジンの回転数や高度によってはガソリンが多すぎてガソリンの燃え残りが出るのですね。これを防ぐために混合比を調節します。一般的に高度が上がって空気が薄くなると燃料が余るようになります。
…アイドリングにした場合に左に振られるのはプロペラのトルクが減少するためだと思います。
09月16日
00:00
6: U96
>倶利伽羅いちろうさん
1年間、飛行時間200時間を経験するまでは前線には出ませんから、その間に訓練できますよ。
09月16日
00:02
7: U96
>フロッガーさん
ヘルキャットは零戦とは対照的な機体ですね。胴体着陸して無事なのは評価したいと思います。
09月16日
00:10
8: U96
>REWさん
ACは燃料を節約するために調節する装置です。
…詳細な解説ありがとうございました!
09月16日
16:06
9: ninf
着陸動作興味深いですね
自分は現在パイロットになるために航空学について勉強中なのですが所どころ勉強している最中に出てきた単語が出てきて納得したりです
今の軽飛行機の速度計にはフラップやランディングギアの操作ができる速度などがマーキングされてるらしいのですがこの頃の速度計にはそんなものついてなかったのかなとか思ったり
ガソリンと空気の混合比はやっぱり重要なんだなとか思ったりです
揚力を作るのに必要な主翼の迎え角の変化もエレベーターの操作によって変えてるんだなというのも最近知りました
後ラダーはあくまでも垂直軸周りの体制制御をするのに使うだけで、旋回時には使うものじゃないという事とか
まだまだ自分は勉強不足ですねー
良い勉強になりますですー
09月16日
16:29
10: U96
>ninf さん
何とパイロットを目指しているのですか…それはすごいですね。私も微力ながら応援したく思います。どうかがんばって下さい!