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U96さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
09月22日
06:25

魔窟アーカイブ:潜水艦魚雷の発射方法

 また1日留守にします。ご理解下さい。

 日本海軍(海上自衛隊でも)では潜水艦による攻撃を「襲撃」と呼んでいました。

 魚雷を用いての襲撃には自艦が敵の斜め前方1000~2000メートルに占位する必要があり、進んでいる敵の未来位置を計算して斜めに魚雷を発射しました。

 潜水艦は自らの存在を秘匿しつつ、雷撃目標(的・マトではなくテキといいました)の運動解析を実施しなければなりません。魚雷の速力は敵艦の一・数倍から三倍程度でしたので、距離によりますが数分から数十分後の目標未来位置に魚雷を送り込む必要がありました。

 目標の未来位置を知るためには、目標の現在位置と針路・速力を知らなければなりません。これが目標運動解析といわれるものです。

 大事なことは魚雷命中に必須の三要素、1、目標までの距離、2、目標の針路(的針)、3、目標の速力(的速)を正確に推定することです。正確とは魚雷が当たる程度の許容誤差範囲内のことです。

 現在では、指揮装置の中にあるコンピュータが複雑な計算をしているのですが、日本海軍では昭和八年に九二式潜水艦用方位盤が採用されました。これは潜望鏡と併用されるもので、魚雷発射に必要な諸元を算定するのに使われました。艦政本部の第二部と日本光学により完成されました。

 その理論については、数学で習った円について復習しましょう。円周(距離)は、直径(半径rの二倍)と円周率(π)の積です。この基本式が潜水艦の襲撃の原理なのです。

 半径一浬(かいり、千八百五十二メートル)の円の円周は六浬強です。これを六時間(三百六十分)で一周する速力は約一ノットです。角速度にすると毎分一度です。一浬先で一ノットで移動する目標の方位変化率は毎分約一度ということになります。復習しましょう。距離一浬で方位変化率が毎分一度なら、速力は一ノットです。

 方位が分かるということは、時間を計れば方位変化率が分かるのです。方位変化率は分単位だから、度/分と表わします。
 接近してくる目標の方位変化率は、徐々に増加します。そして最近接距離(CPA)で最大になり、遠ざかるにつれてまた徐々に減少していきます。だから、方位変化率最大のCPAでは重要な情報が得られます。この時は方位角(目標の進行方面と自分をむすぶ二線の角度)もほぼ九○度なので、的針が分かります。

 目標の方位角が九○度なら、速力はそのまま角速度(方位変化率)になりますが、普通はそうはなりません。方位角と速力の方位成分は、方位角は0度(真向かい)から三○度までは六度一割といわれる変化をしますが、三○度以上では変化量が少なくなります。
 遠距離では方位角は小さいのが普通なので、方位角の見直しは少なめにしなければなりません。また、的針は割に早い時期に収斂する傾向があるので、まず的針を押さえてしまうことが多いです。

 方位角とは、目標の針路(的針)のことでもあります。的針は、敵の行動予測や戦術判断も加味して推定します。近づいて来る以上、方位角が九○度以上ということはあり得ません。適当に五度くらいから始めます。

 残るは、距離と速力です。この二要素は、方位角と違って、数値がモロに解析に反映します。距離一万メートルで十ノットの目標と、二万メートルで二十ノットの目標は、同じ方位変化をするのです。

 的の速力としては、多くの場合十数ノットという常識的な推定値を使います。例えば十五ノットと仮定します。
 通常、速力を推定値に固定して、距離をいろいろ変えて解析を収斂させるのが、手っ取り早いです。

 ところで距離は、推定の幅が大きいです。数十キロから数キロまで幅広い範囲で、正解があり得るからです。的針や的速は誤差幅が比較的小さいです。
 的針、的速、距離を仮定すると、理論上の方位変化量も決まるので、一定時間後(例えば三分後)の方位が予測できます。その時間に実際の目標方位と、予測方位を比較して一致すれば、推定すなわち解析が正解だとみなします。

 実際の観測方位が遅れれば、方位変化量を大きく見積もったことになります。方位変化量を大きく見積もり過ぎる原因は、方位角(的針)を大きく見すぎる、的速を早く見すぎる、そして距離を近く見積もりすぎる、です。誤差の原因はひとつの場合もあれば、複合した結果の場合もあります。

 方位変化量は、距離が近いほど、方位角(的針に影響)が大きいほど、的速が早いほど、大きいです。

 では、実例で説明しましょう。
 北(方位○○○度)に、目標を探知した。無論、この段階では距離や的速、的針などは不明です。
 目標の方位変化を注意深く見ると、わずかに左です。的速を十五ノットと仮定し、方位角はとりあえず左五度としておきます。距離は二万メートル(二十キロ)を初期値にしておきます。

 的速は可能性の幅が小さいから、的針の次には大きな推定の幅のある距離をまずいじってみます。例えば的速を十五ノットと仮定して、距離を増減してみます。例えば二万メートル(二十キロ)としましょう。解析値は的針一八五度、速力十五ノット、距離二万メートルが仮の値として計算機に入っています。

 実際の方位が予想より左に出ました。すなわち計算上の方位変化量より実際の方位変化量が大きいということです。目標はもっと近いということになります。それで距離を四千減らして一万六千メートルにして次の観測方位を比較します。今度は実際の方位が右に出ました。目標はもっと遠いということになります。半量修正で二千足して次の観測を待ちます。今度はわずかに左。もうすこし近いということです。距離を千メートル引いて次の観測を待ちます。ついにほぼ一致しました。魚雷発射しても命中するということです。

 ついでながら、目標の未来位置を算定して、現在の自艦と目標をむすぶ線に対し、どのくらいの角度で発射するかですが、この角度を射角Xとしましょう。三角法を利用してXを求める機械が方位盤です。射角を求めるにはつぎの公式を利用します。

SinX=敵の速力(ノット)/魚雷の速力(ノット)Sin方位角(度)

 いずれにせよ、一定の時間、目標が針路や速力を変えないことが前提でした。之字運動(ジグザグに針路を頻繁に変える)が対潜回避に有効だった理由のひとつがこれです。

 日本海軍は、敵には艦首の六本を二、三秒間隔で発射し、そのうちの一、二本が命中すればよいという考えでした。六本の魚雷は扇状に広がり、敵を包み込む仕組みです。普通、一五○○メートルで数本を発射すれば、少なくとも一本は命中すると教育されていたようです。これはドイツ海軍も同じです。

 余談ですが、ドイツ海軍の戦略は潜水艦による通商破壊でイギリスを兵糧攻めにすることでしたが、狼群戦術が発表されてからは、敵の輸送船団を発見したら、浮上したまま、その横っ腹を突っ切れと命令されていたそうです。

コメント

2019年
09月23日
15:11

ここまで個人で魚雷の攻撃を詳しく表現できる人を見た事がありません
素晴らしいの一言です

Uボートの小説や過去のWW2 1 の潜水艦の攻撃の場面では海図にいろんな情報をあわせてやり取りする場面が出てきますが

あれを当てるのは現実では結構難しいようですね

海流の流れで魚雷の進路が変わったりとか

数撃ちでどれかが当たるという攻撃しか当事はなかったんでしょうけど

いまは複雑な計算をコンピュータがするようになりました

でも、逆にシビアになって大変らしいです

海上自衛隊の実力は本当にすごいらしいですね

2019年
09月23日
22:33

2: U96

はい。ドイツもすばらしいです。映画「眼下の敵」で艦長が上下に扇状発射すれば、4発中2発は当たるはずだ!と言っております。最近ですと、映画「U-571」の冒頭、艦長が潜望鏡の目盛り(ミル値、距離1000mで1目盛り変化すると1m変化する)を読んで、距離、敵商船の速度を割り出し、次席士官(先任士官)が魚雷速度の指示をしていました。