200年2月、王濬は成都を出発し、巴東監軍 唐彬と合流し、例の巨艦を中心とする大艦隊を率いて長江を東に向かいました。最初に王濬の艦隊の前に立ち塞がったのは呉の建平太守 吾彦が守る建平(湖北省巫山)と、吾彦が艦隊の通過を阻止するために長江の間に渡した鉄鎖でした。
鉄鎖による封鎖はすでに羊祜が呉のスパイを捕らえて防御態勢を聞き出しており、王濬は事前に準備を整えていました。その準備とは軍艦の艦首に結びつけられた長さ30mにも達する麻油を注いだ巨大な松明でした。長江を封鎖する鉄鎖に出会うと、王濬は松明に点火して鎖を高熱で溶かして切断しました。しかし建平城は吾彦が堅守して晋軍の猛攻によく耐えたために攻略できず、王濬はこれをそのまま放置して軍を先に進めることを決断しました。3月18日、王濬軍は建平の先の丹陽を攻略し、呉の丹陽監 盛紀を捕虜にしました。
呉は鉄鎖の他に4mの長さの鉄の錐を密かに長江の水中に沈め、敵艦の船底を破壊しようとしていました。これも羊祜の知る所となっており、王濬は事前に錐を除去するための数十隻の長さと幅が約150mの方形の大筏を建造していました。筏は鎧甲を着せ兵器を持たせ草で作った人形を乗せて軍艦に偽装し、水に慣れた者に操らせて艦隊の前を進ませました。鉄の錐はすべてこの筏に刺さり、効果を発揮することはありませんでした。
王濬の艦隊は丹陽攻略の2日後の3月20日に、堅固なことで知られた西陵を攻略し、鎮南将軍 劉憲、征南将軍 成據、宜都太守 虞忠を捕虜としています。3月22日には荊門、夷道(湖北省宜都)の2城を攻略し、夷道監 陸晏(陸抗の子)を捕虜にしました。
(つづく)
コメント
03月27日
20:47
1: RSC
鎖は松明の炎で切れるものなんでしょうか
03月27日
20:51
2: U96
>RSCさん
麻油の炎が何度になるかですね。正直私は無理と思うので、力ずくで鎖を抜いたのではないかと思います。
03月28日
06:22
3: 恋刀
U96師へ
お早う御座居ます、失礼致します。
U96師が、歴史、と申しますか戦史にこれほど精通していらっしゃるきっかけ、入り口はどちらからだったのでしょうか?
もしも宜しければ、お教え下さいませ。
いつも 有り難う御座居ます
失礼致しました。
03月28日
14:55
4: U96
>恋刀さん
はい。東京在住時、コミケで戦争ボードゲームのサークルの勧誘にあったのがきっかけです。病を得て神戸にかえりましたが、こちらでもウォーゲーム・サークルに通っております。先日プレイしたのはフレンチ・インディアン戦争でした。
03月28日
21:14
5: CAOCAO
私も、この鉄の鎖と錐の話を初めて聞いたときに、炎で溶けるのかという点の他にも
・どのように張り巡らせてあの幅の広い長江を封鎖するのか
・鎖を張った程度で艦隊が侵入できなくなるのか
・武具以外に大規模に使用できるほど鉄が潤沢にあるのか
等といろいろと疑問点が思い浮かびました
まあ、かなり後の時代ですがコンスタンティノープルの戦いでも東ローマ側が金角湾を鎖で封鎖してオスマン海軍の侵入を防いだとあるので、実効性はあるのかも知れません
錐を筏に刺して無力化するのは、地雷原の突破方法に似た感じがしますね
WWⅡのノルマンディーの時だったか、チャーチル歩兵戦車の前面にドラム缶をくくりつけて地雷を処理したという話を昔なにかの本で読んだ記憶があります
03月28日
21:39
6: U96
>CAOCAOさん
おっしゃる通りです。一次資料の正史も資料的価値を疑ってしまいます。地雷処理の話ですが、そのドラム缶は回転し、チェーンを叩きつけるものではなかったでしょうか?ソ連軍も確か同様の事をしたと記憶しております。
03月28日
22:07
7: 恋刀
U96師へ
ご返事下さり、
有り難う御座居ます
ボードゲームから戦史にまでご興味を持たれた訳ですか……。僕が魔窟へお邪魔したばかりの頃、あなた様へ大変良くしていただいた事は決して忘れておりません。僕の創作もあと数年以内には、30名以上の登場人物たちが組織だって、戦場に出なければならなくなると存じます。その際には、U96師から教わった戦術や戦略のご本を参考にさせていただきたく存じます。
いつも 有り難う御座居ます
03月29日
07:30
8: U96
>恋刀さん
はい。ウォーゲーム・サークルには戦史の猛者揃いです。
そうですか。創作のために資料が必要だったのですね。役にたったならばよいのですが。
03月29日
19:33
9: CAOCAO
チェーンと聞いて、記憶が蘇りました
25年ほど前に読んだ光栄の『三國志Ⅲ事典』の記述でした
これの「落とし穴回避戦術」の項ですが、今確認したら確かにそのようなことが書かれていますね
03月29日
20:57
10: U96
>CAOCAOさん
なるほど!貴重な資料をありがとうございました。