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U96さんの日記

(Web全体に公開)

2019年
01月19日
16:13

波201潜水艦

 昭和19年2月1日、海軍技術少佐、寺田明氏は艦本四部五班長に任命され、東京の新橋駅近くの日産館ビルに移りました。寺田明氏はここで新型水中高速潜水艦の設計をする事になります。19年の終わりには新型潜水艦設計の話があり、1ヶ月で仕様が決定されました。これが、仮称艦名、第4911号艦型、制式名称「波201(はにひゃくいち)型潜水艦」通称、潜高小型(せんたかこがた)です。
 兵器の特攻化が最優先で進められているなかでの久々の新型潜水艦だったので、皆、大いに奮い立ったそうです。新型潜水艦は本土決戦に向けての沿岸警備用でした。元来、この任務には、蛟龍、海龍がありましたが、航続力が短く、長大な太平洋沿岸に分散配備となり、建造数が多くても、有効隻数は少ないのが問題となっていました。
 要求性能は、53センチ魚雷発射管2門、予備魚雷2本、安全深度100メートル、急速潜航秒時25秒以内、水中速力13ノット、水中航続力100カイリ、行動日数約15日、できるだけ小型のこと、というものでした。
 排水量は700トン、500トンの計画もありましたが、最終的に320トンに落ち着きました。小型化のため、単殻構造、1軸推進になりました。内殻径はエンジンの高さで決まりますが、既存のエンジンを使った結果、3.60メートルになりました。発令所では甲板から天井までは、ほぼ2メートルで乗員にとって、タイトなものになりました。
 水中抵抗の減少のため、艦首の注排水孔を全廃することにし、艦首全体でひとつのメインタンクとする事でこれを実現し、その効果は目黒の水槽試験で効果大でした。
 艦首の舵を廃し、中舵を設けました。これは艦の重量調節用として考案され、乗員の練度も考慮して設けられたので、不要ならば、撤去するはずでした。結果として、急速潜航秒時の短縮にも役立ち、急速潜航は15秒を実現しました(試験で12秒の記録あり)。この中舵は、現代の潜水艦の基本配置となりました。
 高速で水中を航行中、不意に艦首を下げると容易に安全深度を越えるので、船尾安定翼の必要を感じ、飛行機の尾翼計算に従い、縦舵と横舵を推進器の前方に十字形に配置する事にし、水槽試験の結果、採用されました。これも現代の潜水艦の先駆けになりました。
 エンジンは既存の掃海艇等に使われていた中速四百機械(400馬力)を採用しました。このエンジンは4サイクルディーゼルエンジンで、4サイクルゆえにシュノーケルを出して、水中に潜ったまま、駆動可能でした。ただし、実施されなかったという記録もあります。モーターは伊201の特E型電動機1250馬力を使用しました。バッテリーは蛟龍のものを改良した主二次電池一号三十三型甲を採用しました。これは戦後すぐの海上自衛隊の潜水艦に負けない性能で、その寿命を短くする事で容量を増やしています。結果として、水中速力13.9ノット、水中航続力2ノットで100カイリを実現しました。
 大戦末期の艦なので、1号3型電探(レーダー)と逆探(レーダー逆探知機)を備えています。しかしながら、このレーダーの有効性は疑問です。伊202が5ノットで観測困難を報告しています。
 この艦で難を言えば、95式無気泡式53センチ魚雷発射管が艦首に大きくはみ出したこと。さらに320トンの艦に乗員26名のため、居住性が悪く、食料を置くスペースにも困った事が伝わっております。これは行動日数が15日と設定されているため、不問とされたという事ですが、一方では乗員26名では足りないという声も聞きました。三直制を組む事ができず、ニ直制になり、乗員の負担が上がったという事です。
 26人の乗員のうち、士官は準士官である掌水雷長を含む4名でした。この艦では、従来、先任将校である水雷長の担当だった潜航指揮官が機関長になりました。潜航時はツリム計算も行わなければならないので、機関長の仕事は倍増しました。
 潜高小(波201~205、207~210、216)は、終戦までに佐世保で10隻が完成(波204は82日で進水しました)し、7隻が第6艦隊第52潜水隊に配属され、訓練中でした。計画では50隻が建造される予定でした。

…私の母は神戸三菱造船所で、寺田明氏の下で働いておりました。寺田明氏は、土曜日は、夕方「サンダーバード」を観るために飛んで帰っていたそうです。三菱での階級は次長でした。ついでながら、福井静夫氏(顧問)と対照的で、何でも一人でやり、女子社員に仕事を押し付ける事がなかったそうです。この他、当時の三菱には伊41潜水艦艦長だった板倉光馬氏が課長(ドック長)として在籍で、潜水艦の進水式では操艦を務めておりました。私の潜水艦趣味もこんな母の昔話からです!

コメント

2019年
01月19日
18:02

1: RSC

い・ろ・はの順で軽量の潜水艦になっていくんですね。この頃にはもう浮上後の砲も無くなっている様ですが。

2019年
01月19日
19:06

2: U96

>RSCさん
はい。排水量500トン未満が波号潜水艦です。ドイツのⅦ型Uボートも砲を撤去してシュノーケル航行になりました。