海軍技術少佐、福井静夫氏が昭和二十年三月一日に軍令部に提出した報告書「ドイツ水中高速潜水艦ニツイテ」を読みました。大戦末期にドイツで竣工した新型兵器XXI型Uボートが当時の日本でどのように評価されていたかが分かって興味深いです。
…②改革ノ主眼目(主トシテXXI型ニ関シ)
(イ)独潜水艦不振ノ最大原因ハ、航空機電探(注・レーダー)ニ制圧セラルルガタメナリ。スナワチ敵渡洋船団攻撃ノタメニハ、敵制空権下ノ海面ヲ突破出撃スルヲ要シ、敵機ヲ避ケテ昼間潜航、夜間数時間ノ浮上課電ノ危険ヲ冒シ、タトイコレニ成功スルトモ作戦地往復ニハ二ヶ月近クヲ要シ、純攻撃日数ハキワメテ減少ス。
(ロ)IXC型改造潜水艦ハ通気筒(注・シュノーケル)ヲ装備シ、課電浮上ノ危険ヲサケ、大イニ損出ヲ免レタルモ、ナニブン水中速力少ナルタメ、作戦往復日数ハ増大シ、労多クシテ効大ナルヲ望ミ得ズ。
(ハ)敵ノ制海制空権下ノ広海面ヲ高速ニテ水中突破シ、速ヤカニ作戦地ニイタリ、強力ナル敵ノ護衛幕ヲ潜リ抜ケ、船団ニ痛撃ヲ加エントスルモノスナワチ水中高速潜ナリ。
(ニ)コレヲ要スルニ潜水艦本来ノ生命タル隠密性ヲ極度ニ発揮シ、カツコレニ矛盾セザル高度ノ機動性ヲ兼備セシメタル画期的潜水艦ナリ。
私には、ドイツで敵艦知に赤外線が実用化されていたことが分かったのが収穫でした。
…③赤外線
敵ハ既ニ全面的ニ使用シアリ、赤外線ヲ自ラ放射シコレヲ受信スル探信法ト、独潜水艦ノ放射スル赤外線ヲ探知スル方法トアリ。
(イ)前者ハ敵ノ赤外線灯ノフィルターノカットオフ不十分ニシテ、正向スルトキハ、独潜水艦ヨリシバシバ暗赤色ノ光芒ヲ認メアリ。独潜水艦ハ特殊塗料ヲ施シ、反射率ヲ一○パーセント、探知距離ヲ五○パーセント低下セシメアリト。
(ロ)潜水艦ノ輻射スル赤外線ヲソノママ利用スル、イワユル赤外線探知装置ハ、エネルギーノ点ヨリシテ前者ヨリ遥カニ有効ナルコト論ヲマタズ。独潜水艦ノ排気筒ヨリ発スル赤外線ヲ捕エレバ、潜航課電中ノモノハ容易ニ探知シ得ベシ。ユエニ独潜水艦ハ自己ヨリノ赤外線ヲ防止スルタメ、主機械排気管ヲ水中ニ設ケ、確認距離ヲ約九カイリヨリ四・五カイリニ半減シ、マタ通気筒ノ排気筒ヲ水中放出トシ、水上排気ノ場合ノ確認距離ニカイリヲ○・三カイリニ低下セシメタリ。
(注)航空機ヨリ数キロメートルノ潜水艦ニ対シテ一五○カイリノ赤外線灯ヲモッテ照射スルトキハ、潜水艦ヨリノ反射エネルギーハ約○・一ワットニ対シ、潜水艦排気筒ヨリ輻射スルエネルギーハ数キロワットニシテ航空機トノ距離トハ無関係ナリ。シタガッテ探知機ノ方ガ遥カニ有利ナリ。ナオ独側ニテハ、従来電探ニ対シテ実施セルト同一ノ構想ニヨル対赤外線欺瞞装置ヲ使用セントシアリ。スナワチ欺瞞浮標ベンジンソノ他ノ燃焼装置ヲ付シタルモノヲ準備中ナリ。
この赤外線欺瞞装置が、実戦配備されたかを知っている方は私に詳細を教えて下さい。ちなみに敵が赤外線探知装置を実用化していたのはドイツ海軍の勘違いによるものです。
私の母は、神戸三菱造船所に入社し、福井静夫氏の下で働いておりました。福井静夫氏は腰が低い方でしたが、東京の山の手の言葉で女子社員を必要以上にこき使うので、女子社員は福井氏が来ると社内を逃げ回ったそうです。
コメント
12月06日
19:24
1: 退会済ユーザー
この年代、海軍関連の造船所勤めだった我が祖父は
福井少佐と会ってたりしたのかなあ~~~~~?・・・
12月06日
19:54
2: U96
>倶利伽羅いちろうさん
その可能性は大いにあるのではないでしょうか。