ロシア皇帝アレクサンドル二世は連合軍がクリミアで二度目の冬を過ごすという危険に直面しているこの時期に和平交渉に応じるつもりはありませんでした。皇帝は最高司令官ゴルチャコフ将軍に宛てた書簡の中で、フランスが下層階級の不満増大と農作物の凶作によって社会的混乱に陥り、否応なく講和に追い込まれるまでロシアは戦い続けなければならないと書いています。
その頃、ゼーバッハがナポレオン三世の個人的親書を携えてロシアを訪問しました。親書はアレクサンドル二世に仏墺の和平提案を受け入れるよう要請し、決裂して戦闘が再開された場合には、ロシア帝国は領土の半分を失う恐れがあると警告していました。11月21日には、スウェーデンがついに英仏両国との軍事同盟に合意したという知らせが入りました。プロイセン王のフリードリッヒ・ヴィルヘルム四世もアレクサンドル二世に親書を送り、もし、ロシアが欧州大陸に存在する「正統政府の安定を脅かすような」戦争を続けるなら、プロイセンは西側連合に加わらざるを得ないと警告しました。
12月25日、ついにアレクサンドル二世の許に連合国の和平条件を記したオーストリアの最終提案が届けられました。皇帝は父ニコライ一世が最も信頼していた顧問たちをサンクトペテルブルクの冬宮に集めて、ロシア側の回答を検討する顧問会議を開催しました。議論を主導したのは国有財産相として2000万人の農奴を管理する改革派のパーヴェル・キセリョーフ伯爵でした。彼の発言は出席者の大半の意見を代表していました。ロシアには戦争を続けるだけの国力がない。これまで中立を維持していた国々が連合国側に味方する方向に動いている。全ヨーロッパを相手に戦争する危険を冒すことは慎重さを欠く態度と言わねばならない。英仏との戦争を再開することも賢明ではない。ロシアが勝利する見通しはない。ロシアはオーストリアの和平提案を拒否すべきではない。むしろ、受け入れた上で、修正交渉を行ない、領土の保全を図るべきである。キセリョーフはこのように論じました。ベッサラビアの割譲と第五項目の追加は拒否するという条件付きでオーストリアの和平提案を受諾する旨の回答がウィーンに送られました。
ロシアの条件付き受諾回答は連合国間に亀裂を生みました。ベッサラビアに直接の利害関係を持つオーストリアは和平交渉を直ちに中止する構えを見せました。一方、フランスは、ナポレオン三世がヴィクトリア女王に宛てた1月14日付の親書で説明しているように、「ベッサラビアのわずかな土地」と引き換えに和平交渉全体を危険にさらすことに反対でした。ヴィクトリア女王は、和平交渉を延期すべきだとナポレオン三世に回答しました。その間にロシアとオーストリアの意見の対立を英仏側に有利に利用することができるからでした。父ニコライ一世と同様に、アレクサンドル二世はオーストリアとの戦争を何よりも恐れていたのです。1月12日、オーストリアのブオル・シャウエンシュタイン外相は、ロシアが和平提案を受け入れなければ、6日後の1月18日に墺露関係を断絶すると通告しました。プロイセン王のフリードリッヒ・ヴィルヘルム四世からも、オーストリアの和平案を支持する旨の電報がサンクトペテルブルクに届けられました。今やロシアは完全に孤立していました。
(つづく)
コメント
10月08日
15:20
1: ディジー@「本好きの下剋上」応援中
ロシア皇帝アレクサンドル二世を どう攻略するか?
これで ようやく政治で決着が着けられるのでしょうか?
しかし今では考えられませんが、当時のオーストリアの影響力は強かったのですね!
10月08日
20:23
2: U96
>ディジー@「本好きの下剋上」応援中さん
ロシア皇帝の攻略に俺も加えさせろとイタリア人やトルコ人も介入してきます。
オーストリアはスペインの国家元首に身内がいますから。それにフリードリッヒ大王につづいてナポレオンとも何回も戦って鍛えられております。
10月09日
14:44
3: RSC
この時、もう既にロシア国内には革命の危ない兆候が表れていたのでしょうか。
10月09日
17:01
4: U96
>RSCさん
職業革命家が出てくるのは第1次大戦直前です。