英国軍は5時30分に攻撃を開始しました。突撃部隊が採石場陣地とその両側の塹壕から走り出て突進し、その後から、レダン要塞の城壁を攀じ登るための梯子を抱えた支援部隊が続きました。しかし、突撃作戦が絶望的な失敗であることはすぐ明らかになりました。突撃部隊を指揮していたジョージ・ブラウニング中将は報告しています。「突撃部隊の兵士たちは、塹壕から首を出した途端に、経験したこともないほど激しいぶどう弾の砲撃に見舞われた」。ロシア軍の最初の一斉砲撃で突撃部隊の三分の一がなぎ倒されました。コドリントンは距離2000メートルほどの空き地を走り抜けてレダン要塞に到達しようとする英国兵部隊がロシア軍の圧倒的な砲撃によって壊滅的打撃を受ける様子を左翼の塹壕から見ていました。「突撃部隊が姿を見せるな否や、ぶどう弾の一斉砲撃が彼らを襲った。砲撃は地面を抉り、多くの兵士をなぎ倒し、埃を巻き上げて彼らの視界を奪った。兵士の多くは前進することができなくなり、左翼の塹壕に逃げ込んだ。指揮官が後に語ったところによれば、彼らもぶどう弾が巻き上げる土埃で何も見えなくなっていた。ある士官は半ばまで進んだところで、呼吸ができなくなって倒れた」。
指揮官たちは声をかぎりに叫んで再結集を促しました。最前線の突撃部隊と梯子を抱えた支援部隊の一部がやっとのことでレダン要塞まで30メートルの距離にある逆茂木群に到達しました。逆茂木群を抜けようとして悪戦苦闘する英国軍部隊をめがけて「ロシア軍はレダン要塞のすべての胸壁から一斉射撃を浴びせかけた」と第七近衛歩兵連隊のティモシー・ガウイング軍曹は回想しています。
最後まで生き残った100人ほども後ずさりを始めました。勝手に退却する兵士は射殺すると叫んで指揮官たちは脅したが、その脅しも効果がありませんでした。督戦にあたっていたある士官によれば、「兵士たちは、前進すれば砲撃で吹き飛ばされると思い込んでいた。相手が人間ならどんなに多くても戦うが、空中に吹き飛ばされて身体がバラバラになると思えば、前進する気にはなれなかったのだ」。英国兵の間では、レダン要塞の周囲には地雷が仕掛けてあるという噂が広く信じられていました。
その頃、英国軍第三師団に属する2000人の歩兵部隊がウィリアム・エア少将に率いられて、左側面からセヴァストポリ市内への突入に成功しました。エア少将に与えられていた命令は、レダン要塞への突撃作戦に呼応して、可能ならばロシア軍の射撃壕をいくつか占領し、ピケット・ハウス峡谷まで前進するというものでしたが、少将は命令の範囲を越えて市内に突入し、応戦するロシア軍を圧倒して共同墓地付近まで進出しました。しかし、市街地に入った時点で激しい銃撃にさらされ、袋小路に追い込まれました。第九歩兵連隊のスコット大尉は回想しています。「前進することも後退することもできず、午前4時から午後9時までの17時間、地歩を確保して攻撃に耐えなければならなかった。その間、猛烈な砲撃と銃撃に見舞われた。ぶどう弾と散弾が雨霰のように頭上に降り注いだ。敵は狙撃兵を数百人配置して狙い撃ちしてきたのだ。我々は数軒の家屋を盾に身を隠したが、その家屋も砲撃を受けて次々に崩壊しつつあった」。ただし、第一四歩兵連隊のジェームズ・アレクサンダー中佐によれば、セヴァストポリ市内に突入した英国軍部隊の一部は逸脱行為を行なっていました。アイルランド人部隊は「セヴァストポリ市内に突入した後、民家に押し入った。民家にはロシア人女性がおり、絵や家具やピアノがあった。強いワインもあった。アイルランド兵の中には戦利品として鏡やテーブルを持ち帰る者もいた。果実つきのグズベリーの枝を持ち帰った者さえいた!」。彼らが数百人の負傷者を抱えてようやく退却できたのは、日が暮れて暗くなってからでした。
翌朝、一時休戦が成立して、戦場に残された死傷者の収容が行われました。損害は甚大でした。英国軍の戦死者と負傷者は合わせて1000人に達しました。フランス軍はおそらくその6倍の死傷者を出したはずだが、正確な数字は公表されませんでした。
(つづく)
コメント
08月05日
19:59
1: ディジー@「本好きの下剋上」応援中
ロシア強いですね!
そして市街戦は酸鼻。
この戦争と日露戦争の間が50年の半分だったら、旅順は堕ちなかったのではないでしょうか?
08月05日
21:21
2: RSC
対人榴弾が怒涛の様に放たれる光景はぞっとします。歩兵側にはこれに耐える装甲はないですからね・・・。
08月05日
21:42
3: U96
>ディジー@「本好きの下克上」応援中さん
ロシアは土壇場には強いです。独ソ戦でも泥の海を泳いでドイツ軍を奇襲しております。しかし、そろそろ限界です。ロシア兵に脱走が目立ち始めます。旅順要塞に関しては、203高地の戦いしだいかと思います。
08月05日
21:46
4: U96
>RSCさん
私も帆船の戦いのボードゲームで、ぶどう弾の恐ろしさはよく存じているつもりです。居住区が1つ丸々無くなるのです。