おたくMk2

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　九五式四輪起動車は、昭和10年から19年まで10年間にわたり、4775輌が生産された、偵察・連絡用二人乗り乗用車で、通称「くろがね四キ（起・機）」または「ダルマ」と呼ばれました。部隊での使用実績をもとに改修が続けられ、外見、構造にもかなり変化があり、エンジンも当初の1200ccから1399ccにアップされています。
　昭和７年頃から関東軍で万能偵察車として、小型四輪起動車の研究が開始されました。満州事変の前までは、連絡・偵察任務にはサイドカー付オートバイ（側車付自動二輪車）が想定されていましたが、いざ実戦で使ってみると悪路を走破できませんでした。満州の道路は乾けば砂塵、雨が降れば泥沼となりました。このような土地では四輪起動車でなければ走れないと判断され、小型四輪起動車の開発が始まりました。「当時は外国にもこの種の車輌はなく、アメリカのジープより開発時期は早い」と言われることがありますが、実際にはオースチン２シーターを模倣したものです。この時期、アメリカでもオースチンを参考に小型偵察車の開発が始まり、これが後のジープになります。「オースチン8HP2シーター」の諸元は、重量686キロ、乗員2+1名、水冷４気筒900cc、全長3.8メートル、全幅1.3メートル、全高1.6メートルです。
　当時九三式六輪、四輪乗用車が制式化されていましたので、まずこれを小型化する研究が進められました。しかしもともとトラックを改造した乗用車だったので、重量が過大でホイールベースを短くした分ピッチングが激しく、乗り心地は最悪でした。そこで新設計とすることになり、自動車学校研究部で仕様をまとめ、日本内燃機㈱に試作を依頼しました。
　エンジンは満州、華北の寒冷地での使用を考慮して空冷エンジンが要求され、V型空冷２気筒1200ccの大型オートバイのものが採用されました。燃費は１時間４リッター、燃料容量は49（主タンク35、補助タンク14）リッター、最高速度は約70キロ/時でした。
　変速機は三段変速でローギアーが特に低く抑えられており、あたかも四段変速機から第二速を取り除いたような変速比となり、草原地帯や砂地などでは十分に性能を発揮できませんでした。しかし最後まで変速機は改修されませんでした。主要部品には当時の民間車の主力であるフォード車のものが流用され、生産・補給を簡素化することができました。
　機構が単純でつくりやすかったのですが、この空冷エンジンは長時間の運行をするとエンジン過熱によるトラブルが多発しました。またあまりにも軽すぎて、悪路では乗り心地はあまりよくありませんでした。
　部隊での運用実績をもとに、昭和11年に改修が行なわれ、エンジンは1200ccから1399ccにアップし、後席（従来は後部トランクに設置）を車内に入れて３席としました。タイヤも一回り大型のものとなりました。
　改修と並行して、自重600キロ以下のより小型の車輌が研究され、オートバイ、小型車メーカー６社に試作を依頼しました。中でも陸王内燃機の車輌は、技術的にも性能的にも九五式より優秀でした。これは同社製空冷２気筒1272ccエンジンを搭載、軽量化をはかるためフレームにはパイプを使いました。全長3.2メートル、全幅1.5メートル、ホイールベース2.0メートルと九五式とほぼ同じ大きさでした。しかし陸王は当時九七式側車の生産で一杯で、他に量産可能な工場もなく、結局生産されませんでした。
　九五式四輪起動車は、あまりにも小型すぎて応用車をつくる余地はほとんどありませんでした。唯一の例外は、九五式小型自動貨車で、後部を荷台としてトラックとしたものです。自重１トンで、積載量は0.5トンです。海軍もこのトラックタイプは採用しています。

　諸元：全長3.6メートル、全幅1.5メートル、全高1.7メートル、自重１トン、総重量1.3トン、エンジン　空冷ガソリン２気筒32馬力