敵機を発見しました。
空中戦に入ります。
開始と同時に、しなければならない作業があります。
まずは燃料落下タンク(増槽)をつけていたら、落下タンクの燃料コックを閉めてタンクを投下します。そのままでは戦闘の邪魔になります。
次に機銃試射をします。零戦は主翼に20ミリ機銃、胴体上面に7.7ミリ機銃を持っています。この安全装置を外し、試射します。4丁ある機銃の装填レバーを引いて、スロットルについたトリガ(引き金)を「ちょん」と引くだけです。特に20ミリ機銃は銃弾搭載数が少ないので節約して使ってください。零戦初期型で60発、後期型でも120発程度です。初期型では2秒か3秒で撃ち尽くしてしまいます。
発射トリガのそばに20ミリと7.7ミリの切り替えレバーがあります。これによって、20ミリだけ、7.7ミリだけ、あるいは両方同時の切り替えができます。ベテランパイロットになると、最初、7.7ミリで攻撃を開始して、命中弾が出始めると20ミリに切り替えるという技を使ったりしました。ただし、7.7ミリと20ミリでは銃弾の飛び方、特性が違うので注意が必要です。7.7ミリ機銃の発射初速は速いのですが、すぐに速度が落ちて威力を失います。20ミリ機銃は発射初速が遅いのですが、あまり減速しません。また、主翼に取りつけられている関係からパイロットにとっては外れやすく感じます。
次に照準装置のスイッチを入れます。零戦の前の九六艦戦では「眼鏡式」と言って、操縦席の前に望遠鏡のごときものが設置され、照準のためにパイロットは前にかがみ込んでのぞき込まなければなりませんでした。その形状は激しい運動を繰り返す空中戦では非常に使いづらいものでしたが、零戦ではOPL光学照準器を使っています。これは操縦席の前にガラスの板を置いて、この板に照準環を映し出す機構です。このスイッチを入れると目の前に照準環が現れます。
いよいよ準備可能です。
理想的な戦闘は「あなたが敵機に見つからないうちに銃撃を加える」ことです。格闘戦に入るのは先制攻撃に失敗した時です。
格闘戦に入ったら、急旋回で敵機を追ってください。零戦は素晴らしい旋回性能を持っています。
しかし、旋回が激しすぎると、あなたは「ブラックアウト」してしまうかもしれません。ブラックアウトは「激しいG(荷重)によって、血が足に降りてしまって目の前が真っ暗になる現象」です。ですが、我慢して急旋回を続けてください。激しい旋回を続けていると速度が落ちて、ブラックアウトから回復します。諦めずに急旋回を続ければ、ぴったりと敵機の背後に食いつくことができるはずです。
すぐにでもトリガを引きたくなりますが、急旋回の最中に機銃を撃っても遠心力で弾は旋回の外側にそれて命中しません。
通常、急旋回を続けていると、どこかで敵機は諦めます。この瞬間が狙い目です。
敵機は諦めて反対に旋回するにしても、急降下に移るにしても一瞬だけ直線飛行に入ります。この瞬間にトリガを引きます。
照準器の真ん中に敵機をとらえていても、多少でも旋回していると当たらないことがあります。そういう時は「曳光弾」で弾道を修正します。
急旋回を続けても敵が諦めない時は次の操作をします。
五回も六回も急旋回を続けていると、次第に速度も高度も落ちてきます。自然、旋回もゆるやかになってしまいますが、「零戦より優れた旋回性能を持つ機はない」ことを思い出してください。
操縦桿をより強く引きつけます。旋回のさらに内側に食い込みます。この状態で発射すると弾はいったん、旋回の内側に飛び込んだ後、遠心力で外に流れます。ちょうどその場所に敵機がいるように旋回を調整しましょう。これは経験がモノをいいます。
あるいは、これでも勝負がつかないこともあります。格闘戦が続くと速度と高度を急速に失います。時には海面、あるいは地面すれすれまで降りてきてしまうかもしれません。
その場合は上昇します。
零戦は上昇力においてもずば抜けています。特に高度4000メートル以下ではP51ムスタングすら寄せつけません。
一気に上昇し、低空を飛んでいる敵機に上空から銃弾を浴びせかけます。高度があるときは、急降下して逃げる敵機を追いかけると機体構造の弱い零戦は空中分解してしまいますが、充分に高度が低ければ相手はこれ以上降りられません。つまり逃げられないということです。
空中戦、というといかにも長い時間戦っているような印象ですが、実際の空戦は30秒から1分。長くてもせいぜい2分で終わります。 ぜひ生きて帰ってきてください。ちなみに第二次大戦時の初出撃パイロットの生還率はおよそ3割でした。
コメント
08月27日
10:18
1: うちだたかひろ
坂井三郎のインタビューを思い出しました。
空で迷って燃料切れで墜落するパターンがほとんどだったそうですね。
08月27日
10:21
2: ぐらちゃん改
アメリカ戦の前までは最強の戦闘機とぐらいしかわからないです。
08月27日
11:08
3: U96
>うちだたかひろさん
最初の空母対空母の戦い「珊瑚海海戦」では日本軍の目標到達率は39%だったそうですね。無理な夜間攻撃のためだったと言いますが、ちゃんと計器を見ながら飛行しないとだめですね。しだいに慣れていくのですが…
08月27日
11:11
4: U96
>ぐらちゃん改さん
太平洋戦争中盤になるとアメリカ軍も高度を4000メートル以上に保って急降下攻撃に徹し、格闘戦には乗らないようになりました。こうなると零戦の優位も崩れていきます。
08月27日
12:27
5: 咲村珠樹
更に臨場感を高める為に、九六艦戦の九五式照準器とその見た目、零戦の九八式照準器の見た目の写真をご提供いたします。
これらは予科練に保存されていた実物です。
九五式照準器の照星(レティクル)はプリントしてありますが、九八式の方は光像投影式なので、見る角度によって位置が変わります(捉えた場所は動かない)。
目標になってるのはP-47サンダーボルトのプラモです。
ちなみに、20mm機関砲は、撃つとこんな感じです(同型……というか元ネタのエリコンFF)。
08月27日
12:32
6: U96
>咲村珠樹さん
コメントありがとうございます!
…九八式照準器の詳細な構造を解説した書籍はないでしょうか?
08月27日
12:34
7: 鉄砲蔵
このOPL照準器、似たような構造のドットサイトなるものが現在ではサバゲーで主流です。やはり反応速度を求められる時は有効ですね。
08月27日
12:45
8: U96
>鉄砲蔵さん
頬付けしなくても狙えることは大事なのですね。
http://www.enoha.net/sight_optics.htm
08月27日
16:38
9: あおねこ
零式艦上はなにかこう
なんともいえないものを思い出させますね
日本のために戦ったという思いでしょうか
08月27日
16:46
10: 退会済ユーザー
機銃弾を当てるのは、100メートルを、全力で走りながら、針に糸を通すようなものだったと、坂井さんが、確かコメントしてましたので、そうとう難しかったんだろうなとか、思いました。
08月27日
16:46
11: U96
>あおねこさん
大日本帝国の栄光と衰退の象徴ですよね。
もはや伝説化されたと思います。
08月27日
16:52
12: U96
>さかぐちさん
坂井氏は敵機にぶつかるかまで肉迫してから撃っていたそうですね。なかなか撃墜まではいかないものですね。
08月27日
21:20
13: 咲村珠樹
九八式の書籍……ちょっと記憶にないですが、精巧なレプリカが作られているんで、その説明書を見ると、構造について良く理解できるんじゃないかと思います。
http://www3.ocn.ne.jp/~matsu814/
原理は実機を見ると、大体判るんですけどね(^^;
いわゆるレンジファインダーカメラのブライトフレームとほぼ同じです。
08月27日
21:27
14: U96
>咲村珠樹さん
おお!レプリカが売られているのですか…情報感謝いたします。ドイツ機もあるのですね。