日本陸軍の野戦給養は、部隊が携行する炊事器材である「戦用炊具」による調理と、民間より徴発・徴用した現地器材利用の「地方炊具」による炊事と、「飯盒」による兵員各個の調理の3つに大別されます。今回は「戦用炊具」による炊事をご紹介します。
通常、「戦用炊具」による野戦給養は、歩兵大隊ごとに「大行李(だいこうり・食糧をはじめとする生活補給品を運搬する機関)」で「給養班」を編成して行なうもので、「戦用炊具」一式は、「平釜」3器、組み立て式「鉄竈」2器、調理用具などの「付属品」より構成されています。
「戦用炊具」一組の運搬には、「輜重車」1台、ないしは「駄馬」2頭が必要です。
平釜は、釜本体に中釜(穴の空いたアダプター)と焦げ付き防止のための焦止器(穴の空いた脚付きつっかえ棒)が付属します。一度に1斗7升(21.5キロ)の米を炊飯できるほか、状況に応じて穴の空いた中釜を平釜に挿入して、米を「茹(ゆ)で炊き」する場合もあります。中釜を用いた炊飯量は八升です。
鉄竈は5つに分割されたプレートを組み合わせて作る組み立て式で、薪(まき)を燃料として使用します。付属品には、調理器具や米を洗うための大小の「米洗桶」、炊き上げた食材を分配するための「飯布(はんぷ)」、食事を前線に運ぶための「飯運嚢(はんうんのう)」などがあります。
歩兵大隊の「大行李」には、「戦用炊具」一式が5組備えられており、下士官以下18名の「炊事班」を編成して、約1000名の1日分の食事の支度をします。鉄竈は10器ですが、通常、炊飯用に6器、副食調理用に2器、湯沸し用に2器が当てられます。
具体的な炊飯方式には、「中釜」を用いる方式と「平釜」のみを用いる方式があります。
「中釜」を用いる方式は、平釜に45リットルの水を入れて沸騰させ、10キロの米を入れた「中釜」を平釜の熱湯に浸し、約10分間炊いた後、「中釜」を平釜から取り出して水分を切って蒸らす炊飯法です。
第2回目の炊飯の際は、平釜に18リットルの水を補充して行ないます。
この「中釜」使用の炊飯は、熱が全体に伝わるために、初心者でも確実に炊け、炊飯時間も短い利点がありましたが、できた飯は不味く、また、米の栄養分が平釜の湯に溶け出してしまう欠点がありました。
「平釜」のみを用いる方式は、平釜に36リットルの水を入れ、沸騰した時点で21.5キロの米を入れます。再び沸騰したら竈から釜を下ろして蒸らします。これは一般的な炊飯に近い方式でした。火を直接受けるために焦げや生煮えになることも多く、多少の技術と熟練が必要でしたが、飯のできは美味で滋養にも富んでいました。
以下に1000名1日分の炊飯時間の一例を示します。
①釜9器(中釜使用)、竈6器使用の例。炊飯回数、9回、器具組立、20分、点火、10分、沸水、20分、炊飯、1回20分(計3時間40分)、炊飯合計、4時間30分。
②釜9器(中釜不使用)、竈9器使用の例。炊飯回数、9回、器具組立、20分、点火、10分、沸水、20分、炊飯、1回40分(計2時間40分)、炊飯合計、3時間30分。
でき上がった飯と副食(おかずのこと)は、「飯布」と呼ばれるシートの上に広げ、適量ずつ小分けし、飯は「飯包布(はんほうふ)」で包み、副食は「菜包布(さいほうふ)」で包んで「飯運嚢」と呼ばれる防水ズック製の袋に入れて前線に運ばれます。
また、飯は「握り飯」にして前線へ送る場合があり、この場合は1組14人の「握り飯作成班」3組が投入され、1000人分の「握り飯」を30分で作り上げました。なお、「握り飯」1つの大きさは米1合(140グラム)分で、1人あたり2個で1食分でした。
「戦用炊具」の名称は、のちに「野戦炊具」と改められました。
コメント
07月04日
19:32
1: 黄金バット
>「握り飯」1つの大きさは米1合(140グラム)分で、1人あたり2個で1食分でした。
2個ですか、漬物は付くのでしょうか?
07月04日
19:59
2: U96
>櫻 弾基地(さくらたまきち 実験中さん
はい。大抵沢庵が2個付きます。
07月04日
20:23
3: RSC
この輸送に名馬を当てる事はなかなか無いとは思いますが、「駄馬」はやはりアングロアラブの耐久性に優れた馬達だったのでしょうね・・・。
07月04日
20:59
4: U96
>RSCさん
はい。日本の在来馬はポニー程の大きさだったので、馬格の向上は急務でした。また、民間からの徴用を考えて、馬主に帳面を配布していました。そして、軍事訓練を受ける度にスタンプが押されました。帳面の実物を私も古書店で入手したことがあります。