今も昔も潜水艦は敵制海権下に侵入して、破壊活動をし、その海域を危険海域にしてしまう弱者の兵器です。
アメリカ南北戦争は潜水艦(艇)が戦った初めての戦争でした。北軍の海上封鎖がかなり応えてきた頃、南軍は聖書の巨人ゴリアテを倒したダビデにあやかって、ダビッド(David)艇と呼ばれる潜水艇を何隻も建造して北軍艦隊に攻撃をかけました。1864年2月17日、ハンレー号と名付けられたダビッド艇が北軍の新式の蒸気艦ハウストニック(Housatonic)を撃沈しました。これは世界で初めて軍艦を沈めた潜水艦(艇)として戦史に記憶されました。
この潜水艦は鉄製で長さ60フィート。楕円形の横断面を有し、船体は二重になっていて、間にバラストタンクがあります。
推進機関は人力で、8人の乗員(1名が操縦を担当する)が回すクランク軸に取り付き、むらのない一定の力でスクリューを回すことができました。潜航時間は30分くらいでした。
潜航の仕方は、円筒形船体の外側のバラストタンクに海水を入れ、船体を水面すれすれまで沈め、8人の力でスクリューを回して前進します。艦長は前部にいて、縦舵で方向を決め、潜舵を下げ舵に操作します。前進につれ、海水は潜舵の上面に当たるので、潜舵に下向きの力が働き、艦を下に押し下げると同時に艦首を下げ、艦は前進しながら潜航します。浮き上がるには潜舵を上向きに変えます。
この艦はハンレーという人が、アラバマ州モービルで製作し、サウスカロライナの港チャールストンまで鉄道で運ばれてきました。
はじめは機雷を曳航して敵艦に当てるつもりでしたが、後にスパー・トーピードに改められました。これは艦首から長い丸太棒を突出し、その先端に爆薬を装置し、敵艦の舷側にぶつけて爆発させるもので、爆発がこちらに危険をおよぼす恐れがありました。
潜航時間が短いので、多くの場合、上部を僅かに水面上に露出し、その部分にある2個の昇降口蓋を開けて、いわゆる侵洗状態(Awash position)で航行しました。航行中、近くを汽船が通ったら、その波で沈没し、艦長の他は皆、死んでしまいました。そんな艦なので、実戦に出るまで35人も犠牲者を出していました。1863年10月にはハンレーも死んだのです。
1864年2月17日夜、ハンレー号は出撃しました。攻撃の際は潜航で行くべきでしたが、不幸つづきを知っている乗組員は、どうしても潜るのはいやだと言って、昇降口を開いたまま、水面航走で進みました。敵兵が気付いた時、ハンレー号はもう敵の舷側に接近していて、砲を一杯下に向けても、弾はずっと先の海面に飛ぶ始末でした。艦長は竿の先の火薬が丁度よい処に来るように艦をもって来て爆発させたから、敵艦は艦尾を先に左舷に転覆して沈没しました。そのあおりでハンレー号も例の通り昇降口から水が入って、爆発のために敵艦の舷側に出来た大孔に頭を突っ込んで沈んでしまい、乗員9人全員が艦と運命を共にしました。
北軍はハンレー号に逃げられたと思っていました。しかし後年、潜水作業中にハウストニックの横に沈んでいるのが発見されました。
コメント
05月28日
15:38
1: ディジー@「本好きの下剋上」応援中
潜水艦を運用できるのは強国!と思っていましたが、廉価版とかありそうですね。
そんな頃から潜水艦ってあったのですね!
ああ ↑ コレに乗りたくない気持ちは解る。
乗組員のご冥福を祈ります。
05月28日
15:47
2: U96
>ディジー@「本好きの下剋上」応援中さん
イギリスを一時は飢え死に寸前まで追い込んだドイツのUボートは有名ですが、戦局が悪くなればなるほど、またUボートへの期待はこの上なくあがりました。Uボートは必ず海上封鎖を破ってくれると。そして、Uボート建造は市民の寄付金でまかなわれるようになるのです。建造されたUボートの艦橋には寄付をしてくれた市の紋章が描かれました。
ついでながら、私もこの艦には乗りたくありません。合掌。
05月28日
20:17
3: 黄金バット
関わる人を不幸にする船ですね。
>しかし後年、潜水作業中にハウストニックの横に沈んでいるのが発見されました。
しっかり落ちが付いてるw
05月28日
20:23
4: U96
>櫻 弾基地さん
はい。呪われていますね。
どうやらハンレー号は引き上げられたようですが、保管する側はたまらんでしょうね。
05月28日
21:32
5: RSC
昔から潜水艦に対抗するには「水面から落とす爆発物」だったのですね。
しかし「名探偵ホームズ」などに出て来るユーモラスかつ優秀なメカニックがやはり空想の産物なのだと思い知らされます。
05月28日
21:39
6: U96
>RSCさん
爆雷は船の速力が遅いと、船尾近くで爆発し、自分も被害を受けます。この問題が解消されるには投射機の実用化を待たなくてはなりませんでした。