サボ島沖海戦で活躍したSGレーダーは、あくまでも水上捜索用レーダーです。しかし米海軍は、射撃管制用(Fire Control)レーダーも配備しつつありました。Mk-3と呼ばれた射撃管制用レーダーが登場したのは1941年です。しかし1942年の段階でもMk-3の装備はそれほど普及しておらず、新鋭戦艦と一部の旧式戦艦、そして「ブルックリン」級新型軽巡の一部が装備していたに過ぎませんでした。
1942年11月14日夜半に戦われた第3次ソロモン海戦において米戦艦「ワシントン」は、Mk-3レーダーを有効活用して日本艦隊を撃破しました。ここでは第3次ソロモン海戦における「ワシントン」の射撃について追い、レーダー射撃の有効性について考察したいと思います。
この第3次ソロモン海戦は非常に複雑な戦いでした。数度に渡る日米水上部隊同士の激突、日本巡洋艦によるヘンダーソン飛行場への制圧射撃、米軍機による日本輸送船団への攻撃等、様々な戦闘が短い期間に連続して行われました。戦艦「ワシントン」が活躍したのは、「第3次ソロモン海戦第2次夜戦」(米側呼称「第3次サボ島沖海戦」)と呼ばれる戦いです。
第3次ソロモン海戦第2次夜戦は2つの段階に分けて戦われました。第1次段階は日本側軽艦艇群(軽巡2、駆逐艦6)と米艦隊(戦艦2、駆逐艦4)の戦いです。この段階で日本艦隊は砲雷撃戦の腕前を見せ、米駆逐艦4隻を全て撃沈破しました。日本側の損害は駆逐艦「綾波」を失ったのみ。
第2段階は日本側主力部隊(戦艦1、重巡2、駆逐艦2)と米戦艦2隻との戦いです。この段階では日本艦隊の先制攻撃が功を奏して米戦艦「サウスダコタ」を撃破したものの、「ワシントン」の反撃によって戦艦「霧島」を失いました。
こうして戦いは米艦隊の勝利に終わった訳ですが、この戦いは米戦艦が初めて射撃用レーダーを実戦で使用し、その有効性を示した実戦として注目に値します。ここでは主に戦艦「ワシントン」の戦闘詳報に基づいて米戦艦の射撃状況を見ていきたいと思います。
まず「ワシントン」が「霧島」に致命傷を与えた主砲射撃ですが、この時「ワシントン」はほぼ完全なレーダー射撃を実施しています。この時の射撃時間が7分、命中率が12%です。これは実戦下における戦艦の主砲射撃としては極めて良好な数値といえます。さらに命中速度1.29[発/分]は日本艦隊の0.07~0.41[発/分]を遥かに凌駕していました。このことから本海戦における「ワシントン」のレーダー射撃は極めて有効なものであったと評価できます。
「この戦いは夜間戦闘におけるレーダーの計り知れない価値を示した」
上はこの海戦が終わった後米第6戦艦戦隊の戦闘詳報に記載された一文です。
無論、この時点でレーダー射撃が完璧なものであったという訳ではありませんでした。例えば、「ワシントン」に随伴していた「サウスダコタ」もこのときMk-3レーダーを搭載していました。しかしこちらは電気回路の故障や被弾による損傷等でレーダーを殆ど有効活用することができず、逆に日本艦隊の一方的な砲火を受けて大きな損傷を被りました・「サウスダコタ」の事例を見る限り米側のレーダー能力もまだまだ不安定な部分が多い状態であったといえます。
敵味方識別や戦果判定の不正確さも大きな問題でした。例えば「ワシントン」は戦闘中にしばしば射撃中止を命じていますが、これは敵味方識別の不完全さに起因する所が大きいです。また「ワシントン」がこの戦いで報じた戦果は以下のように過大なものでした。
撃沈:戦艦又は大型巡洋艦1、大型巡洋艦2、駆逐艦1
撃破:14インチ砲戦艦1、駆逐艦1、小型艦艇5~9
米艦隊による実際の戦果は、戦艦1、駆逐艦1撃沈に過ぎなかったので、上記の戦果報告は事実と比べて明らかに過大です。この戦いに関する米側の記録はレーダー能力を高く評価する傾向がありますが、過大な戦果報告を加味した場合、実際のレーダー能力が彼らの評価通りであるとは考えない方が良いのかもしれません(完)。
コメント
07月19日
20:10
1: RSC
先日はコメントでこの戦いの人的損失でネタバレしてしまい申し訳ございませんでした。
07月19日
20:21
2: U96
>RSCさん
いえいえ。ネタは被っておりません。ノープロブレムです。
07月22日
22:41
3: ソヴィエトの巫女
一方、ソ連はレーダー無しで戦った(そしてドイツに勝ってしまった)
07月23日
22:26
4: U96
>ソヴィエト・ロシアの霊夢さん
ボードゲームでの話ですがゲリラ的に出没するソ連戦艦、マラートとオクタビアツカヤ・レボリューツィアが憎らしかったです。