潜水艦が浮上、あるいは露頂状態にある場合の艦位測定の方法は、基本的に水上艦船と同じです。すなわち、灯台や顕著な山などが見える時は、潜望鏡でそれらの方位を測定し、方位線が交わる所を艦位とします。
レーダーを使用しても差し支えない浮上航走中で陸上が見えにくい場合は、岬や島などの距離を計測してその距離の円弧を描き、円弧の交わる所を艦位とします。陸上の目標が探知できない洋上においては、GPSで艦位を得ています。
洋上で艦位を得る方法として、かつてはロランA、ロランC、オメガ、天測などがありましたが、GPSの簡易、迅速、高精度は、あっという間にこれらを時代遅れにし、ロランCを除き、基地局なども閉鎖されてしまいました。
しかし、中国が衛星攻撃を実演したことから、有事にGPSが正常に機能する保証はありません。各種設備が破壊されても絶対に影響を受けない天体を利用して艦位を測定する天測は、最後の手段として考慮するべきです。浮上して六分儀を使うのではありません。潜望鏡で星を探し、その高度を計測して指揮装置によって天測計算を行います。
潜水艦で最も問題となるのは、全没状態における艦位です。潜水艦の針路と速力を積算して現在位置を推定することはできますが、この方法では海流や潮汐流の影響を受け、最後の位置計測からの時間経過とともに誤差が大きくなります。
航路付近に顕著な海山等がある場合には、測深儀で深さを測りながらその上を航走して位置を確認する事も可能ですが、そうした目標がない場合には使えません。等深線が比較的変化に富む海域では、測深を継続しながら直進運動を行ない、得られた深度の等深線を集約して位置を推定することも可能ですが、東シナ海の大陸棚のように起伏がほとんどない海域や太平洋の深海域のような場所では使えません。
こうした問題を一挙に解決したのが、高精度なリングレーザージャイロを使用した慣性航法装置です。この装置は、運動の加速度とその方向を極めて精密に計測し、それを積算して移動量を求めるもので、GPSで正確な位置が得られればそれを基準として常時現在位置を算出できます。これはもともと高速で運動する航空機などで用いられていたのですが、装置の精度向上などとともに、低速な潜水艦でも使用されるよになりました。
実際の運用結果からみると、潜水艦慣性航法装置の位置精度は極めて高く、もはや海底地形を利用した航法の必要はない、と、いうのが現実です。
コメント
12月05日
22:45
1: 咲村珠樹
これで現在は自動操縦装置がついてるんですよね。
ただ、これは完全自動操縦ではなく、一定深度・針路をキープして、ズンズン行くだけの装置ですが……。
それでも、水中で「まっすぐ進む」ことができるようになったのは、操縦士の労力を大幅に軽減することになったようですね。
……と、海上自衛隊第2術科学校で、実物の各種ジャイロをひとつひとつ、教官から解説されて覚えました(^^;
現在海上自衛隊の艦艇で使われているリングレーザージャイロは、心臓部はP-3Cなどと全く同じものが使われています。
ただし、名称や予算は全く別ものになっていますが……航空機では英語名称を使い、艦艇では日本語訳が使われるので、用語がバラバラです(^^;
12月06日
17:00
2: U96
>咲村珠樹さん
実物のジャイロが見れたのですか・・・それはうらやましいですね。現代戦では咲村さんとの差は広がるばかりです。
12月06日
21:10
3: 咲村珠樹
ちょっと教材用ジャイロの写真をば。
まずはアン(アンシュッツ)式3型。
そしてアメリカ製のMK1(手前)と、国産のOSN-1(奥)。
いずれも、郵便ポストのような円筒形・四角柱の機械が「マスターコンパス」です。
実際の艦に搭載されているマスターコンパスは、基本的に見ることはできません(艦の重心部に近い、安定した奥底にある)から、なかなか実物を見る機会はないと思います。
第2術科学校は、昔でいうところの「機関学校」なので(敷地は旧海軍の水雷学校跡地ですが)、潜水艦等に使われていた実習用ディーゼル機関の写真も。
12月06日
22:14
4: U96
>咲村珠樹さん
おお!おお!このようなものなのですか・・・感謝感激です。