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U96さんの日記

(Web全体に公開)

2013年
11月09日
21:47

潜水艦操艦号令詞

 操艦号令は、艦を安全に運航する上で極めて大事なものです。出入港の際の微妙な操艦をするときや行会船と見合い関係になったとき、操艦を誤ると即事故となりかねません。
 潜水艦が水上状態の場合、操艦者(艦長または哨戒長)のみならず、発令所の操舵員と運転室の電機員ともに、操艦号令とそれに対する復唱と操作を正しくやり取りすることで、操艦者の意図した操艦ができることになります。

 操艦号令を下令する際は、明瞭で歯切れのよい大きな声に、抑揚をつけるのがコツです。もちろん、復唱と艦の動きをしっかり確認し、錯誤を防止しなければなりません。
 水上で潜水艦を操艦する場合の問題点は、艦橋が吹きさらしであることです。風雨が強いときはなおさらです。また、操舵員の所在が艦橋でなく、発令所であるため、号令と復唱のやり取りは、交話装置を介したものとなります。滅多にないことですが、交話装置が故障すると発令所から艦橋まで無電池電話のコードを引き、ヘッド・セットを装着して操艦したこともあります。

 潜水艦の号令詞は、操舵(変針)に関するもの、速力に関するもののほか、潜水艦に固有な深度に関するものもあります。
 操舵に関する面舵・取舵の用語は、古く和船の時代から使われています。十二支に基づくもので、左の十二支に右に十二の動物をあてて、時刻と方角を表しました。
 例えば、子(し) 鼠(ね) 北000度、卯(ぼう) 兎(う) 東090度、午(ご) 馬(うま) 南180度、酉(ゆう) 鶏(とり) 西270度、と、表示します。
 
 面舵(おもかじ)とは、舵を右に転ずることをいい、取舵(とりかじ)とは、舵を左に転ずることをいいます。発声は「おもーかーじ」と「とーりかーじ」で、強風下の艦橋でも錯誤が生じないよう、異なるイントネーションとしました。ようそろ(宣候)は直進および了解の意味で使われます。

 では、実際に舵を右に取って、旧針路の000度(真北)から新針路の045度(北東)へ方向転換してみましょう。操艦者「おもーかーじ」、操舵員「おもーかーじ」(復唱)、操舵員「面舵20度」(舵角を報告)、操艦者「もどーせ」、操舵員「もどーせ」(復唱)、操舵員「舵中央」(舵角を報告)、操艦者「45度よーそろー」操舵員「45度よーそろー」(復唱)、操舵員「よーそろー45度」(定針を報告)、操艦者「よーそろー」(了解)と、いう具合です。

 大角度変針の際、時に使う応用動作があります。操艦者は面(取)舵を指令後、舵をもどしてから新針路を下令します。ところが、露頂深度において潜望鏡観測中の場合など、往々にしてジャイロ・コンパスをいちいち確認している余裕がない場合があります。そこで、面舵、取舵を指令し、続けて「○○○度よーそろー」と下令してしまいます。あとは操舵員に任せ、潜航指揮官(水中の哨戒長付)がフォローしてくれるわけです。

 速力については速力区分が決められています。以下に内訳を表示します。一杯は緊急時のみです。(前進)微速、半速、原速、強速、第1戦速、第2戦速、一杯、(後進)最微速、微速、半速、原速、一杯、と、表現します。

 号令は各速力区分に前進または後進を付けます。たとえば、「前進原速」のように発唱します。受令した操舵員は、復唱して速力通信機(テレグラフ)を操作します。
 速力通信機は発令所にあり、運転室に速力区分を伝える器械です。各速力区分には、それぞれに対応する推進器の回転数が定められています。時には、速力区分にこだわらず、速力区分の間の中間速力を、7MC(交話装置)を使って所要の回転数を運転室へ指令することもあります。

 深度に関する操艦号令には、潜航深度の指令があります。号令は「深さ○○○」と発唱します。単位はメートルです。指令深度を受令した潜横舵員は、指令深度につくようそれぞれ潜舵または横舵を操舵します。所定深度についたならば、潜舵員は「深さ○○」と報告します。必要とあれば、潜航指揮官は「上げ(下げ)舵○○度」と潜横舵の舵角を指示することもあります。
 潜水艦映画でたまに「深度○○メートル」という表現がありますが、深度(しんど)は針路(しんろ)と間違いやすいので、深さという表現が適正です。

コメント

2013年
11月09日
23:06

補足です。
「面舵20(ふたじゅう)」「面舵ふたじゅうヨーソロー」
と読むのですよね。

舵の角度は操舵機だけでなく、艦橋前面にあるモニターでも確認することができるので、ジャイロを見ている操艦者たちはそれと艦の方位、そしてジャイロで当て舵の指示を出すことになる訳です。

で、速力区分ですが、現代の自衛艦では3ノット刻みになっています。
ですから「原速」は12ノット、強速は15ノット。
第1戦速以上は最大速力まで3ノット刻みになるので、艦によってまちまちになります。
写真の、むらさめ型護衛艦はるさめ(DD-102)の場合は、1〜5戦速に最大戦速、そして一杯という刻み方になってますね……えーっと、だから最大で30ノット以上(最大〜一杯までは刻みが変わる)。

かつては艦橋で航海科員が速力を指示し、機関室で機関科員が変速機等を利用して軸回転数を変化させていましたが、現在は艦橋で操舵員(航海科)が全てコントロールする仕組みになっており、操縦室(機関室)での機関科の仕事は、計器の監視業務になっています。

てな訳で、昨年撮影した、護衛艦はるさめが横須賀港の新港埠頭に接岸する直前の艦橋の様子で、実際の操舵の申し送りを見てみてください。
基本的に海軍時代と変わりがないはずです。

2013年
11月10日
01:21

2: U96

>咲村珠樹さん
おお!ありがとうございます。
テクノロジーは進化しているのですね。
現代戦では咲村さんにかないません。

2013年
11月10日
02:58

おおぉ U96さん、咲村珠樹さん、勉強になります

夏に宇宙戦艦ヤマト2199を見ていた時に、
操艦している島大介が艦長の号令を復唱
しているときのイントネーションが
セルアニメ時代と違っているのに気が付いて、

恐らくこちらが本当だろうと思っていましたが、
この日記を読んで確信が得られました^^ 
ありがとうございますww
.

2013年
11月10日
07:27

4: U96

>もぐりんさん
ありがとうございます。

久しぶりに潜水艦ネタを書きました。
好評ならばもっと続けたいと思います。

2013年
11月10日
21:01

現代の護衛艦では、現行唯一蒸気タービン機関を使っているしらね型(基準排水量5200トン)で350名と、太平洋戦争時の同規模戦闘艦である軽巡洋艦、川内型(基準排水量5195トン)の440名に較べて8割程度の乗員で運用されています。

ガスタービン機関を使っている最新の汎用護衛艦あきづき型(基準排水量5000トン)では200名、最大のひゅうが型(基準排水量13950トン)で350名です。
これだと、あきづき型は川内型の半分、ひゅうが型は同級の重巡洋艦愛宕(改装後の基準排水量13400トン)が835名乗せていたので、3分の1強の乗員で賄えています。

機関や、兵装などを含めた遠隔操作の技術が上がったせいでしょうね。
そして、組織の人員が縮小し、艦船の量に較べて要員が確保できなくなったことも一因でしょう。
おかげで、護衛艦の操縦室(機関操作室)は、スイッチとモニターしか並んでません(^^;

さすがに、戦闘艦を動かすにはこれが最低限のようで、3000トンクラスのはつゆき型護衛艦(3100トン)は200名、3500トンのあさぎり型護衛艦は220名と、太平洋戦争時の駆逐艦(2000〜2500トンで約200〜250名)と同等の乗員となっています。
……基準排水量2890トンの軽巡洋艦夕張だと、300名以上で運用してますけどね(^^;

ただ船を動かすだけなら、試験艦あすか(基準排水量4250トン、ガスタービン機関)が70名(他、試験関係のメーカー技術者100名)で運用しています。

さらに、現在はスクリューが可変ピッチプロペラになってまして、ある程度の速力までは軸回転数はほぼ一定で、プロペラピッチ(翼角)を変化させることで速力の調整をしています。

>もぐりん。さん
ヤマト2199は、総監督のブッちゃんがミリオタですし、実際に海上自衛隊に取材して用語の確認等を行い、アニメにした時演出上の支障がある部分以外は、実際の用語と同じにしています。
第1話の冥王星会戦で出てきた「右舷(みぎげん)」「左舷(ひだりげん)」なんてのもそうですね。

2013年
11月10日
21:54

6: U96

>咲村珠樹さん
詳細な解説ありがとうございます。
それにしても出渕氏がミリオタとは初めて知りました。

2013年
11月10日
22:09

>>咲村珠樹さん
解説ありがとうございます。
自衛隊に取材してたとは、どうりで・・・ セルアニメの時代は「右舷(うげん)」「左舷(さげん)」と言っていて、イントネーションも含めて明らかに違うセリフだったので、もしや、と思っていましたよw 監督がミリヲタだったとは納得です♪♪ SFですが、ある意味リアル志向ですネ!

2013年
11月11日
10:49

お詳しいですなー(゚□゚)
潜水艦は艦これでしか知りません・・・w
艦これでは燃料と弾薬の消費が少なくてえらい燃費良いうえに色々役に立つ良い艦種です。

2013年
11月11日
17:15

9: U96

>炊飯器@劇場版なのは2nd BD/DVD 絶賛発売中!!さん
ありがとうございます。
「艦これ」では万能なのですね。建造コストではどうでしょうか?史実では1トンあたりの建造費が戦艦の3倍かかりました。