以上のような必要条件を満たしつつ、防御計画を立てる場合の注意点、ということについて見てみましょう。
まず、特に注意しなければならないことがあります。それは、機動打撃を自らの選んだ時期において、自らの選んだ地域において行なう、または行なえるように、防御計画を立てなければならないということです。敵はどのような行動を成し得るか、また成し得ないか、それに対して我はどのような行動を成し得るか。このような的確な状況判断は非常に重要なことです。そして、このように重要なことこそ、真に困難なことでもあるわけです。敵の行動を予測し、また敵を我が意図に導入する。これが防御計画立案の、中心課題といえるでしょう。
次に注意しなければならないことは、我が方の意図、つまり機動打撃力を準備している、ということを敵に知られてはならないことです。機動防御とは、敵に餌をまき散らして、食いついてきたところに反撃をかけるという、いわば敵を罠にかける、というような言い方もできるでしょう。これを敵にさとられては、どうしょうもないわけです。それどころか、こちらが逆に奇襲されてしまうでしょう。したがって、この意図を敵に秘匿し、また欺瞞することが、特に重要になるわけです。
さて次には、より具体的な注意点をあげておきましょう。1つは機動防御における重要な鍵である、機動ということから導き出されます。つまり、敵の機動力を減殺する、敵の機動の自由を拘束するために、障害を構築する、ということです。天然障害を利用し、人工障害を構築して、障害を構成することにより、敵の行動を制約するわけです。これによって、敵を我が意図に導入する、ということも可能になってくるわけです。
もう1つは、これも重要な鍵である火力についてです。機動防御を成功させるためには、火力は2つの重要な役目を果たさねばなりません。その2つとは、機動打撃の好機を作るということ、そしてまた、機動打撃に協力しその敵を撃破する、ということです。機動打撃の好機を作る、つまり機動打撃を有利な態勢のもとに行なうために、火力が行わなければならないこととは、具体的にいうと、機動打撃をしようとする敵を、他の敵部隊から分断することがあげられます。つまり、侵入した敵ではなく、その後続部隊に火力を指向して、侵入部隊を孤立させる。あるいは、侵入した敵を、例えば歩兵と戦車を分離するなどして各部隊をばらばらにし、各個撃破できるようにするということです。そして、もう1つの機動打撃に協力するということは、文字どおり、機動打撃をしている敵部隊に対して、火力を指向するということです。機動打撃における火力は、この2つのことを行なえるように準備することが、必要だということです。