ーそれで私がこのことをお聞きするのは三回目ですが、左に左にと行くのがあるでしょう。もう一遍説明していただけませんか。プラモデルを使って。
坂井 ここでかかってきますね。と、だいたい、七○○メートルぐらいから撃ちはじめる。七○○メートルというと相当遠いですから、その頃撃ったやつは、軸線さえはずしていれば、そう当たるものではない。
それでまず、降下しながら待つ(回避操作を)あんもり早くやってしまうと、未来位置をねらわれる。だから、飛びながら左足をグッと踏み込む。そうすると、飛行機はこう(右へ)こう滑っている。滑って、中心線はいままでどおり一直線に行っているんですが、飛行機そのものは右へ滑っている。玉(旋回計)は、このときは右へ吹っ飛んでいます。
そうすると彼らは、こちらが正しい降下飛行をやっていると思う。だから直線をねらってくる。そうすると、こっちへ(右へ)滑っていますからね。滑っているけれども、ここで(相手の弾が)当たるなと思う頃に、バンク(傾き)をグーッと取るんです。そして、ここで左足をもっとグーッと踏み込みますと、このまま左足だけですとビューッと右へ滑っているんですが、ここでもう一段突っ込み(押す)ながらバンクをぐーととりますと、飛行機は不思議に、こちらのほうへ(左のほうへ)グーッと行くんです。だから、こちら(後方)から見たら左に滑っているようにみえる、攻めているほうが。
ーいったんバンクをとりますね。最初、右へ滑っているでしょう。
坂井 いったん右へ滑って、そこで左足を踏んで。
ーさらにバンクを入れて、玉はそのとき左に落ちるわけですね。
坂井 左に落ちかかります。そのときに操縦桿を(左前方へ)突っ込む。もっと突っ込む。グーッと突っ込むと、ここで(今度は)飛行機は右に滑りながら、実際は左へ滑っているように、こっち(後方)から見ると見えてくる。
ここは筆者が、左へ左へと射弾を回避する操縦法について、しつこく質問しているところである。本論に入る前に読者は二つのことを知らなければなりません。「横滑り」と「玉」のことです。
「横滑りとは、飛行機が横方向にずれて飛ぶことを言います。飛行機は必ずしも胴体軸と平行に飛ぶわけではありません。飛ぶ方向が左右どちらかにずれることがあります。そのようなとき、飛行機は「滑っている」と言われます。
だから初心者は滑らずに飛ぶことを徹底的に教育されます。しかし戦場では「劣等生の飛び方」こそ重要です。相手に経路を読ませないためです。零戦は空力的に極めて洗練された機体でした。異常に大きい横滑りができたようです。
ちなみに飛行機の機首を振るには、左右の足でペダルを踏みます。左足を踏むと方向舵が左に曲がり、機首は左を向きます。このとき飛行機は右翼を前に出して飛び、これを右横滑りといいます。機首を左に振るときが右横滑りです。
ちなみに横滑りと旋回はちがいます。横滑りは機体がはすになって飛ぶだけで、重心は真っすぐ飛んでいます。飛行機はほぼ直進しています(続く)。
コメント
11月11日
21:46
1: 咲村珠樹
横滑り状態でスティックを操作し、バンクを取ると旋回(ターン)かスピンに入りますね。
踏む方向と同じだと、そちらの方へ旋回、逆だとスピン。
ラダーだけを踏み込むと、踏んだ脚と逆方向に滑る(尾翼が逆に振れるので、バンクを取ると機首が逆方向に向くようになる)というのが判らないと、結構キツいかもしれませんね……。
この説明、地上から見ると一発で判るでしょうが、相対的に見るチェイス機(追いかける際に同様の機動を取るので基準がズレる)からすれば、常識を外れた動きをしているように見えるでしょうね。
11月12日
00:06
2: 咲村珠樹
横滑りについて説明するのが難しいので、実際の映像を追加しておきます。
これで一目瞭然かと。
横風(クロスウインド)での着陸に使う「クラブ」という技術です。
横風で着陸する際、滑走路に正対すると風に煽られたり流されたりして危険なので、機首を風上に向けて横滑り状態で降下し、着地寸前で滑走路に正対させます。
11月12日
04:14
3: U96
>咲村珠樹さん
おお!確かに滑っていますね・・・貴重な映像ありがとうございます!