戦闘機や戦車などのハード面ではイスラエルに見劣りする部分が無かったのにもかかわらず、これまで惨敗してきたエジプトが知恵をしぼって起死回生の戦いを1973年に行ないました。スエズ運河沿いに地対空ミサイルをずらりと並べ、その射程距離内だけで戦う。そして、消防ポンプの放水でスエズ運河の堤防を崩し、兵員をスエズ運河東岸に展開させる。展開後は、タコツボを掘って、対戦車ミサイルでイスラエル軍の戦車が飛び込んでくるのを待ち伏せする。開戦は、ユダヤ教の贖罪の日(休日)にスエズ運河とゴラン高原で、エジプトとシリアが二方面から攻撃する。あとは大国の調停が入るまで持久する。
攻撃は10月6日14時に始まりました。エジプトもシリアも自軍が太陽を背に出来る時間に開戦したいと主張しましたが、結局、エジプトが譲歩しました。
エジプト軍が、スエズ運河西岸地区に展開した対空部隊の兵力は約75000人で、その装備は、高高度用SA-2ガイドライン、中高度用SA-3ゴア、個人が携帯する低高度用SA-7ストレラなどの地対空ミサイルがあり、これらについては、アメリカがベトナム戦争で鹵獲し、イスラエル軍もECMのノウハウがありました。しかしながら、新型兵器もありました。装軌車搭載のSA-6ゲインフルです。イスラエルはこれを侮り、低空に逃げれば良いと考えておりました。確かにミサイルというものは、発射されて徐々に加速していくものなので、低空での回避は容易でした。だが、低空には、自走高射砲ZSU-23-4、ZSU-57-2、ZPU-2が待ち伏せていたのでした。これらの対空兵器によってイスラエル軍は114機を失いました。これは保有機の約23%です。緒戦の24時間の損害は34機で、この数字にイスラエル国防軍最高統帥部は驚き、「スエズ運河から20キロ東方の進出制限線以遠の空域に侵攻することを禁止する」と指令を出しました。こうして局地的空中優勢が確保されました。
スエズ運河の東岸には運河建設時の掘開土が積まれており、これが高さ10~20メートルあり、これを排除して通路をつくる必要がありました。イスラエル軍はエジプト軍は渡河に12~24時間かかると計算しておりました。これはエジプトのとある工兵中尉が放水を提案したところ、成果が良好なため、短時間に土砂を処理する算段がつきました。エジプトは西ドイツに特注した高圧放水ポンプ100基を購入しました。1基3万マルク(約300万円)だったそうです。結果、スエズ東岸の掘削はわずか9時間で完了し、幅7メートルの車両用通路を60箇所も開けました。このようにして、イスラエルはエジプトの奇襲を許してしまいました。
渡河の第一波は約8000名の歩兵でした。スエズ運河の渡河と東岸における橋頭堡の確立が出来た後、正面1キロメートル当たり、55基の対戦車兵器を配備しました。
第一波の歩兵が携行したのは、スーツケースで携行する対戦車誘導ミサイルAT-3サガーが543基、対戦車擲弾筒RPG-7Vが1348基、無反動砲が580門、対戦車砲が290門です。戦闘に入るとエジプト軍はイスラエル軍戦車1両に対して、サガーを同時に3発ないし4発撃ち込んだそうです。生き残った将兵の語るところによると、前方、砂漠にあるはずのない切り株のようなものを見つけて、気に留めず、前進して、これが切り株でないことに気づいたときはもう遅かったそうです。観戦武官は、これらの戦果を、百年戦争のクレッシーの戦いにおけるイギリスの弓歩兵がフランスの騎馬部隊を撃破したものに例えました。
この戦争以降、ミサイルがボンボン飛び交い、大戦車部隊同士が激突する戦争はありません。第二次大戦ファンも第四次中東戦争にもう少し興味を持ってほしいと思います。
PS:この戦争があったからこそ、アメリカはエジプトに相手をしてくれるようになり、エジプトはソ連を見限って、急速にアメリカに接近していきます。
コメント
10月16日
22:46
1: 闇従(あんじゅ)
名作対空戦車シルカ(ZSU-23-4)の名が~
結局中東は実験場にされてしまっていたのか‥
以下余談。
中東戦争は4戦やってイスラエルが4勝しちゃいましたが、中東的にはこの数年後にイラン革命が起きてアメリカは泡を吹く羽目に。
そしてイライラ戦争‥ろくなことないですね。フセインに大量に武器を供給して、そのとどめに湾岸戦争にイラク戦争。思うようにならないと見るやこの仕打ち。
10月16日
22:56
2: U96
>闇従(あんじゅ)さん
シリア側にはT-62戦車がソ連から供給されました。イスラエルは鹵獲したT-62の火力を気に入り、近距離なら命中率の悪さは目をつぶれると都市防衛に配備されました。
中東の不安定要素はイギリスがサウド家とハシム家の両方をアラブの盟主と認めたこと、イギリスとフランスで勝手に国境線を引いて分割してしまったことに発します。
10月16日
23:39
3: RSC
片目のダヤンはこの第四次で辞任しているのですね。
10月17日
01:44
4: 葛湯
ファミコンのファミコンウォーズは戦闘工兵がミサイルでどうにかできるバランスでしたが参考にしてそうですね。
10月17日
06:18
5: U96
>RSCさん
ダヤンは国防相として、第四次中東戦争の勃発を見抜けなかったことから辞任しました。メイヤー首相にも責任があるような気もします。
10月17日
06:23
6: U96
>葛湯さん
えっ!それは初めて知りました。
このゲームに制空権という概念はあったのでしょうか?
10月18日
01:33
7: 葛湯
ファミコンでは対装甲に対し効果的(費用対効果)で、対空性能があった為に敵航空戦力の弾薬を消費させれるというマルチぶりでした。
航空戦力もユニット化されていますが高度の概念が薄いので制空権の再現度は弱いかも。
10月18日
06:13
8: U96
>葛湯さん
なかなか高度なゲームだったのですね。
ありがとうございました。