鉄(Fe)にに各種合金元素を加えたものが「鋼」「装甲」です。合金元素には、クロム(腐食・酸化抵抗を増加、硬化能増加)、ニッケル(焼入れしない、または焼きなました鋼を強くする)、モリブデン(硬化層を深める、焼き戻し脆性を防止)などがありますが、これらの配合の微妙な調整が極秘なのです。ちなみに大戦末期にニッケルやクロム等のレアメタルが不足したドイツでは装甲板の強度が低下し、ソ連軍の報告書でティーガーⅡの装甲の質はティーガーⅠやパンターより低いと酷評されております。
また熱処理のための温度や処理過程なども、含有合金元素がちょっと変わっただけでも違ってくるもので、これも極秘事項でした。
このような冶金工学の分野ではヨーロッパのメーカーに一日の長があり、日本の冶金技術は1930年代後半になって、軍事部門のごく一部がようやく世界レベルに追いつきはじめたというのが実情でした。
金属の硬さを表す単位に「ブリネル硬度数」というものがあります。これは、直径10mmないし、5mmの鋼球を素材表面に押し込んで、めり込んだ穴の直径を指数化したもので、この数値が大きいほど硬い金属ということになります。
装甲板にとって硬さはもちろん重要ですが、「硬い」ということは「脆い」ということでもあります。敵弾の当たった衝撃でガラスのように砕けてしまうようでは駄目で、粘り強さ(靭性)も必要です。
硬度と靭性の兼ね合いは、想定する敵弾、装甲厚やコンセプトによっても変わってきます。小火器銃弾(30口径級の普通弾/徹甲弾)を対象とするならば(1930年代の軽戦車や現代の小型装甲車のように)、厚さ10mm以下で、ブリネル硬度500とか600の非常に硬い装甲板が選ばれるでしょう。
しかし対戦車砲や敵戦車を対象とするなら厚みと靭性も必要になってきます。大戦初期のイギリス軍戦車の装甲板がブリネル硬度400程度だったのに対し、ドイツのティーガーⅠ戦車はブリネル硬度265だったのは、100mmという分厚い装甲で敵弾を受け止めるコンセプトであることを示しているのです。
厚さが40~80mm程度の場合、装甲の表面部分のみ炭素含有量を増やして硬度を上げた「表面浸炭装甲(AFH=Armor Face Hardend)」が流行したこともありました。日本戦車の装甲は鋼の板に味噌を塗り、電気炉で熱し、菜種油で冷却して炭素Cを表面に吸着させていました。
これは、硬い表面で敵徹甲弾の弾頭頭部を砕き、靭性のある中間部から裏面にかけての部分で食い込んでくる弾頭と衝撃を受け止めようという、一種の複合装甲の思想です。しかし、表面浸炭装甲板は切削工作や溶接作業が非常に難しく、装甲が厚くなるにつれて均質圧延鋼に取って代わられてしまいました。
圧延均質装甲(RHA=Rolled Homogeneous Armor)は、板状の鋼材にローラーがけなどによる熱加工を施したものです。圧延ー加熱ー圧延ー加熱を繰り返す熱加工によって鋼材の粒子は微細化し、さらには巣(鋼材内部に不規則に生じる微細な隙間)も消滅して強度が高まるのです。
コメント
04月21日
01:22
1: あおねこ
ドイツは日本刀のつくり
金属の種類の応用の感激して
装甲のつくりの研究にしたという
お話を何かで読みました
金属の精製技術はむつかしいです
04月21日
07:37
2: U96
>あおねこさん
私もその話を読んだことがあります。
日本刀には炭素が多く含まれると、しかしながら叩いて鍛えるというところまでは気づかなかったと記憶しております。ティーガーⅠ開発のときだったかな。
04月22日
00:47
3: 退会済ユーザー
元戦車乗りとしてとても勉強になります。
金属精製と装甲がこんなにも奥が深いものとは・・・
04月22日
09:52
4: U96
>edelwolfさん
なんと戦車乗りだったのですか・・・それはすごいですね。今回は鋲接や鋳造など製造技術の話まで書けなかったのが残念です。